【Q&A】卵胞の発育の件~吉川先生

あんずさん(37歳)

お世話になります。22年10月の採卵手術以来、有効な卵胞が発育しません。(当該手術は胚盤胞まで育たなかったため受精卵は廃棄となりました。)
前周期(23年1月)は卵胞の影が見えたのですが、ゴナールエフを最大単位打っても大きくなりませんでした。以下3点、ご意見を伺いたいです。
1.ゴナールエフの刺激後、卵巣が疲弊して卵巣機能が落ちることはあるのでしょうか。
2.半年間有効な卵胞が育たない場合、自力で排卵させるのは不可能ということなのでしょうか。
※ 主治医に直近の採卵手術時(22年10月)から半年間有効な卵胞が育たない場合、治療の方向性(終了するかどうか)を相談しようと言われているため、ご意見を伺いたいです。
3半年間有効な卵胞が育たない場合、IVA手術以外に治療法はありますか。

津田沼IVFクリニックの吉川守先生に伺いました。

吉川 守 先生(津田沼IVFクリニック)
1991年山梨医科大学(現・山梨大学)卒業。亀田総合病院、船橋二和病院、セントマーガレット病院、山王病院などを経て、2010年11月I津田沼IVFクリニックを開設。
※お寄せいただいた質問への回答は、医師のご厚意によりお返事いただいているものです。また、質問者から寄せられた限りある情報の中でご回答いただいている為、実際のケースを完全に把握できておりません。従って、正確な回答が必要な場合は、実際の問診等が必要となることをご理解ください。
排卵誘発剤の注射をたくさん使っても卵胞が発育しない理由について、どうお考えになりますか?また半年間有効な卵胞が育たない場合、自力で排卵させるのは不可能ということなのでしょうか。
可能性としましては、
1)AMHが0.08ととても低いことより、卵巣内に卵胞がすでに無い、または極めて少ない
2)卵胞刺激ホルモン(FSH)基礎値がかなり高い
3)当該注射(ゴナールエフ)が合わない、(最大単位でも)量が足りない

などがあります。1)または2)の可能性が高そうに感じます。

1)でしたら、効果は高くないかもしれませんが、IVAや、PRPの卵巣内注入

2)でしたら、FSH基礎値を2ヵ月以上調整(なるべく低く)する。
例として、保険外診療でしたらアンタゴニスト薬の内服や注射(「遅延開始(スタート)法」)、保険診療でしたらウルトラロング法など。
「遅延開始法」は下記を参照してください。
https://ameblo.jp/tsudanuma-ivf-clinic/entry-12771408953.html

3)でしたら、HMG注射への変更 が対応策となります。

半年間有効な卵胞が育たないということですので、自力での排卵の可能性はかなり低いと思います。

●高刺激法で排卵誘発することで、卵巣が疲弊してその後半年も月経がとまることはあるのでしょうか?またゴナールエフの刺激後、卵巣が疲弊して卵巣機能が落ちることはあるのでしょうか。

エビデンスは無いと思いますが、高刺激による卵巣受容体感受性低下により、一時的に注射や内服薬の反応が低下することはあると思います。

それよりも、高刺激法(ゴナールエフ)を使用しなくても、もともとの卵巣機能低下のために月経がとまったとする方が考えやすいと思います。

 ●IVAという治療法について教えてください。また半年間有効な卵胞が育たない場合、IVA手術以外に治療法はありますか。

次をご参照ください。
原始卵胞体外活性化法(IVA)

https://ameblo.jp/tsudanuma-ivf-clinic/entry-12685175590.html

原始卵胞体外活性化法(in vitro activation;IVA)とは、手術で卵巣(組織)を取り出し、卵子活性化剤添加で原始卵胞の成長を開始させた後に、生体内に戻して卵胞発育を期待する方法です。

卵胞が残っていれば、通常の排卵誘発が無効の場合でも、IVA後に卵胞発育がみられることがあります。

PRPにつきましては次をご参照ください。
多血小板血漿(PRP)
https://ameblo.jp/tsudanuma-ivf-clinic/entry-12735539758.html

多血小板血漿(Platelet Rich Plasma;PRP)とは、血小板に含まれている各種の成長因子を高濃度で卵巣内に注入する方法です。卵巣機能が改善し、2~3か月後以降の卵胞数や採卵数が増加したり、卵子の質が改善するとされています。

これら以外でしたら、先述のアンタゴニスト薬の使用やウルトラロング法によりFSHを調整して卵巣刺激を遅らせる方法もあります。

●先生であればこの方にどのような検査や治療を勧められますか?

「あんず」さんは「早発卵巣不全」ではないかと存じます。
早発卵巣不全は女性の1~2%に認められ、40歳未満で閉経レベルまで卵巣内の残存卵胞が減少(1000個以下)、或いは消失するため、卵巣内に発育卵胞がなく、排卵障害や4カ月以上の無月経、不妊を呈します。
卵胞ホルモン低値(例えば、20pg/ml未満)、性腺刺激ホルモン高値(例えば、卵胞刺激ホルモン40mIU/mlより高値)のため、更年期症状を呈することがあります。

早発卵巣不全の原因は、不明(特発性)がほとんどです。

家族性発症を認めることがあります。
他に、Turner症候群などのX染色体異常、遺伝子異常、遺伝子変異(卵胞刺激ホルモン受容体異常など)、自己免疫疾患(アジソン病、重症筋無力症、甲状腺機能異常、糖尿病、全身性エリテマトーデスなど;自己抗体が卵胞細胞を攻撃して変性させます)、ホルモン産生卵巣腫瘍、酵素欠損(軽症ガラクトース血症など)、感染、医原性(卵巣手術、抗癌剤、免疫抑制剤、放射線治療など)とされています。
自己免疫疾患の検索をしてみてはいかがでしょうか。

早発卵巣不全では、卵胞発育が起こったり、卵巣機能が復活する場合があり(約20%)、自然妊娠、或いは生殖補助医療で妊娠することがあります(5~10%)。

「間欠的卵巣機能回復」と呼ばれる卵巣機能の一時的な回復を捉えることが大切です。

早発卵巣不全の治療には、次のようなものがあります。
1)ホルモン療法

(1)卵胞ホルモン(エストロゲン)を補充すると、卵胞刺激ホルモン(FSH)値と黄体形成ホルモン(LH)値が低下しますが、この状態を2カ月程度継続してから卵巣刺激を行うと、卵胞発育が見られることがあります。

(2)GnRHアゴニストでFSH値とLH値を2カ月程度低下させてから卵巣刺激を行うと卵胞発育が見られることがあり、この後に生殖補助医療を行います。

2)IVA

3)PRPの卵巣内注入

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