2個移植か単一移植か、残っている7個の胚盤胞の有効な活用法は?
これまでの治療データ
●検査・治療歴
保険適用開始後に採卵して体外受精を3回実施したが、結果はすべて陰性。今月4回目の移植を行う予定。過去に妊娠歴はなし。
●精子の検査データ
精液検査では異常なし。
●不妊の原因となる病名
左卵巣周辺にチョコレート囊腫。悪い部分だけを取り除く手術を受けてすでに治療済み。
●サプリメントの使用
ラクトフェリン、ビタミンD、アルギニン
ドクターアドバイス
●保険診療では貯卵できない。
●2個移植は多胎の可能性も。
●着床不全検査も検討を。
まず選択肢の一つである、2個移植に関して先生の意見をお聞かせください。
柏崎先生●なかなか結果が出ないという方には、当院でも2個移植を行う場合があります。多胎のリスクがあるので、原則良好な胚を2個戻すことは避け、一番良い胚と一番悪い胚の組み合わせで移植します。ランクでいえばAとC、もしくはBとCなど。AとBの胚を一緒に戻すと双子ができる可能性があるので、なるべく避けるようにしています。
複数の胚を移植する方法として、ほかに二段階胚移植というやり方もあります。まず3日目くらいに初期胚を戻して子宮内膜を着床しやすい状態にしたあと、5日目に良好な胚盤胞を移植します。
この方法は現在、先進医療として認可されているので、保険診療で不妊治療をされている方でも実施できます。料金は自費になりますが、民間の医療保険に加入していて、先進医療特約を付けている方はそれを使える可能性があります。
単純計算をすれば、2個の胚を戻せば1個の胚を戻した時より妊娠率は倍に上昇。確かに妊娠率は上がるかもしれませんが、当然、多胎になるリスクも上がります。
2個胚移植で双子になる確率は全体の1 割程度。自然妊娠では300~400人に1人の割合なので、やはり高くなってしまいますね。
多胎のリスクは深刻にとらえたほうがいいのですか? 星影さんは双角子宮ということです。
柏崎先生●双子というのはどうしても流産率が高くなるし、未熟児で早産してしまう割合も高くなります。母体への負担もかかってきますから、医療側の基本的なスタンスとしては単一移植することをおすすめしています。
しかし不妊治療の保険診療がスタートし、移植の回数制限が設けられた以上、一概に「2個移植はできません」とはいえない状況です。十分にリスクをご説明したうえで、患者さんに最終判断をしていただくという形をとっている施設が多いのではないでしょうか。
また、星影さんは双角子宮であることを心配されていますが、双角子宮自体は妊娠・出産にほとんど影響はありません。双子を妊娠した際のリスクは正常な子宮の方と変わらないと考えていただいていいでしょう。
最終的にはどのような選択をすればよいのでしょうか。
柏崎先生●正直、どのような形がベストなのか明言するのは難しいのですが、僕の考えとしては、経済的なこともあるのでこのまま保険診療で続けられたほうがいいのではないかと思います。
経済的に厳しいということであれば2個移植、もしくは二段階胚移植を検討してください。経済的な面がクリアできて自費診療でも構わない、多胎も怖いということなら1個ずつ着実に移植するのが医学的にも良いのではと考えます。
なかなか結果が出ない原因は不明ですが、もしかしたら受精卵ではなく、着床に問題があるのかもしれません。残り少ない移植を確実に生かすために、着床に関する検査を受けてみるのも手だと思います。
胚を戻す前に、着床の窓を調べて移植の最適なタイミングを探るERA検査(子宮内膜受容能検査)や、子宮内の細菌バランスを調べる子宮内フローラ検査などを受けてみてもいいかもしれません。良好胚を複数回移植しても結果が出ない方は試してみる価値はあるでしょう。二段階胚移植より実施している施設が多いので、ハードルは少し下がると思います。
これらの検査は先進医療なので、保険診療で治療をしている方でも受けることができます。検査料金は自費でそれなりに費用はかかりますが、体への侵襲は少なく、外来でできる検査なので考えてみてはどうでしょうか。
当院では検査を受けて妊娠されたケースもあるので、主治医に相談されてみてもいいかと思います。
不妊治療の保険診療がスタートしてから、このような悩みを持つ患者さんは増えましたか?
柏崎先生●保険診療で採卵した場合、特例はあるにしても、原則、貯卵というのは認められていません。保険診療で採卵したけれど、もう少し受精卵の数を増やしたいから凍結して、全部使い切らないまま次にまた採卵をするというのは認められていません。まず、あるものを使い
切ってしまわないといけないのです。
一度にたくさんの数を採卵した場合、そこが悩むところでしょう。確かにこのようなお悩みを持つ患者さんもいらっしゃいます。これからもっと増えてくるかもしれませんね。
今後保険の適用がさらに広がって星影さんのようなケースもカバーできるようになることを、我々医療側も期待したいと思っています。