不妊治療中、治療がうまくいかなかったり、結果が出なかったりするとネガティブになりがち。でも、不妊治療に大切なのは明るく楽しく過ごすこと。どうすればポジティブ思考で過ごすことができるのか、脳科学にも詳しい精神科医の樺沢紫苑先生にお話ししていただきました。
脳疲労がさらに悩みを深刻化する
皆さんはどんな気持ちで日々を過ごしていますか? 晴れやかだったり、穏やかであればいいのですが、「何もいいことがない…」など鬱々としていませんか? 実は、「嫌なことばっかり」「つらい」と思い続けていると脳疲労に陥り、余計に苦しくなります。
脳が疲れてくると、情緒が不安定になり、イライラしたり、怒りっぽくなったり。思考もどんどんネガティブに偏ってしまい、悩みもより一層深刻になってしまいます。その結果、ストレスが増加し、体に悪影響を及ぼします。
不安をあおる扁桃体。鎮めるには「言葉」が有効
脳の中には扁桃体という危険を察知する装置があります。不安や心配な気持ちを抱えている時は大抵この扁桃体が興奮している状態です。ネガティブな考え方をしがちな人ほど扁桃体が過敏なので、ちょっとでも「つらい」と思うことがあるとすぐに反応し、脳疲労を起こしてしまいます。そして1日中、不安が頭から離れない状態ができあがってしまうのです。
扁桃体の興奮を鎮める役割をつかさどるのが前頭前野。考えたり、記憶したり、感情のコントロールを担う脳の司令塔です。この前頭前野から扁桃体に「大丈夫」「何とかなる」などの「言葉(言語情報)」が流れると扁桃体の興奮が抑制されるという研究があります。脳科学的に「言葉」には不安を鎮める効果があります。何度も口にすれば、暗示効果も加わってさらに安心を取り戻せるのです。
ポジティブ思考は身近な幸せを見つけることから
心も体も健やかでいるためには、どんな時でも「楽しい」ことを考えられるポジティブな思考が大切になってきます。「そんなの無理」と思うかもしれませんが、意外と簡単です。日々の生活のなかでちょっとした「楽しい」ことを見つけるだけで、「つらい」という気持ちがリセットされ、明るくポジティブになることができます。ポジティブな気持ちは免疫力を高めるという実験結果もあります。
たとえば、1日に楽しいことが5つ、嫌なことが5つあったとします。その中から3つを選ぶ時、ポジティブな人は良かったことから3つ選び、ネガティブな人は悪かったことから選びます。つまり、ポジティブな人というのは、自分が得ている幸せに気づく力があるということです。
幸せを感じるのは脳内物質の作用
私たちはどんな時に幸せを感じるのでしょうか? 幸福に、かかわる主な脳内物質にセロトニン、オキシトシン、ドーパミンがあります。「3大幸福物質」と称され、これらが十分に分泌されている状態だと、私たちは幸せを感じることができます。
セロトニンは、心と体が健康な時に分泌され、「気持ちいい」「爽やか」など、気分や感情、体感などで幸福を感じます。オキシトシンは人とのつながりによって分泌され、「安心」「やすらぎ」「満たされ感」を感じます。そしてドーパミンは、何かに成功した時に高揚感と興奮をともなって分泌され、「達成感」「喜び」を感じます。
多くの人は3つめのドーパミン的幸福を求めがちですが、実は幸せの土台となるのはセロトニン的幸福で、これが最も重要です。セロトニンは感情をコントロールする脳内物質。したがってたくさん出ているということは、心身ともに穏やかな状態であるということ。逆にイライラしている人は、セロトニンが下がっていることになります。まずはセロトニンがしっかり出る生活を送ることが大切です。
3つの幸福の優先順位を間違えると幸せになれない!?
幸せの基盤となるのは、心と体の健康による「セロトニン的幸福」。一見、当たり前のようで、実はかけがえのないものです。次が他者との交流によってもたらされる「オキシトシン的幸福」。誰かと一緒にいて「楽しい」「うれしい」「安らぐ」幸せ。最後が、何かを達成した喜びで得られる「ドーパミン的幸福」。セロトニン的幸福やオキシトシン的幸福などの「静かな幸福」とは違い、高揚感と興奮を伴う大きな幸福です。しかし、大きな結果を出すことだけに執着しすぎると本当に大切な幸せを見失うことになるので注意が必要です。
<幸福の優先順位>
①セロトニン的幸福
②オキシトシン的幸福
③ドーパミン的幸福