胚移植の着床不全の原因にアプローチする 着床率、妊娠率アップ! 二段階胚移植とシート法

先進医療に認定された二段階胚移植とシート法について、今さら聞けない疑問や不安、治療のメリット・デメリットなど佐久平エンゼルクリニックの政井哲兵先生にお聞きしました。

佐久平エンゼルクリニック 政井 哲兵  先生 鹿児島大学医学部卒業。東京都立府中病院(現東京都立多摩総合医療センター)、日本赤十字社医療センター、高崎ARTクリニックを経て、2014年に佐久平エンゼルクリニックを開院。

受精卵を2回に分けて移植して胚盤胞の着床率を上げる

 二段階胚移植体外受精・胚移植において、1つの周期で時期をずらして2回に分けて移植するものです。受精後2〜3日目の初期胚と5日目の胚盤胞を2回に分けて移殖するのが基本的な方法です。そもそもの原理として、これまでの研究で受精卵(胚)と子宮内膜がクロストーク、いわゆる“会話”しているという発想から生まれたものです。実際クロストークとは、胚から成長因子などのいろいろな物質が子宮内膜へ働きかけること。具体的には1回目の初期胚を子宮内膜へ移植する際に胚を受容できる状態に変化したりしながら、免疫学的には半異物である胚に対する免疫的寛容が誘導されて、時期をずらして移植される胚盤胞の着床が促進されます。要するに、1回目の胚が2回目の胚をサポートすることで着床率をアップさせるというものです。
 従来の移植よりも二段階胚移植は着床率が上がり、妊娠率が上がったとするデータがあります。デメリットとしては、2個の胚を移植することになるので本質的には2個胚移植と同じことになり、双子になるリスクがあります。

多胎妊娠のリスクを改善胚1個を移植するシート法

一方、シート法は二段階胚移植のデメリットである、多胎妊娠を避ける問題を改良した方法といえます。多胎妊娠を避けるため受精卵を2回に分けて子宮へ戻すのではなく、1回目は培養液のみを子宮へ入れる方向に変更したのです。これは胚が成長する過程で培養液に成長因子などの物質が溶け込んでいるのではないかという考えから、胚を直接戻さず、胚の培養液を子宮に注入することにしたのです。そして培養液から刺激を受けた子宮内膜が着床しやすい環境に整えられることを期待し、その後に胚盤胞を移植する方法です。これにより、移植する胚は1個に制限することができ、なおかつ、二段階胚移植と同様に高い妊娠率となるわけです。

要するにシート法は二段階胚移植のデメリットである多胎妊娠のリスクを改良する方法です。あえてデメリットを挙げるとすると、費用面と培養液を移植するために、2回は通院しなくてはならず、通院回数が増えることで、スケジュール調整が難しくなるかもしれません。

自分の気持ちや考えを伝えオーダーメイドの治療を

当院では昨年、二段階胚移植により妊娠・出産された患者さんがいらっしゃいました。採卵も毎回2 ~ 3 個、さらになかなか胚盤胞まで育たなかったのですが、1 つを分割胚で先に凍結して残りが胚盤胞になれば… と治療を進めていました。そこで偶然にも、分割胚凍結と胚盤胞凍結ができ、二段階胚移植をする条件が揃ったのです。移植の提案をしたところ、その方もせっかくある胚なのでどちらも移植したいという意思を確認でき、二段階胚移植を行いました。このように、偶発的に条件が揃ったのでこの治療を行う、というのがこの方法における私の認識です。

シート法に関しては胚盤胞に培養する過程で培養液があるので、それを凍結さえしておけば、後に移植で使うことができます。そのため、二段階胚移植のように“たまたま条件が整った”というよりは、前もってシート法について提案し、治療を行うということになるかと思います。

いずれにしても、良好な胚盤胞でもなかなか妊娠できない、胚盤胞移植の反復不成功例の方が適応だと思われます。また、この方法で良好胚を移植しても妊娠率が1 0 0 % にならないことも報告されています。胚移植より採卵を優先したほうがいいかは、卵巣予備能検査や凍結胚の数によると思います。十分に凍結胚が残っているなら、その凍結胚を戻せばいいでしょう。

治療を行う中で大切なのは、治療の途中でも疑問に思うことがあったら、医師などに聞いて疑問を解決すること。何よりも患者さん自身が納得し、理解して治療を進めることが大事だと思います。

二段階胚移植とシート法

●二段階胚移植とは?

受精卵を移植するにあたり、受精後2 日目の初期胚を移植後2 ~ 3 日で、別の胚盤胞に至った胚を移植する方法。ただし、多胎のリスクは回避できません。

●シート法とは?

胚の培養液を凍結保存しておき、胚移植の2~3日前に子宮内に注入する方法。移植胚数は胚盤胞1 個に制限できるため、多胎のリスクを回避したうえで、妊娠率を上昇させることが可能です。

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全記事、不妊治療専門医による医師監修

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