着床不全を解消するカギに? 子宮内膜着床能(ERA) とはどんな検査?

着床のベストなタイミングを調べることができるといわれているERA検査。実際に導入している明大前アートクリニックの北村先生にその内容や効果についてお話を伺いました。

明大前アートクリニック 北村 誠司 先生 1987年、慶應義塾大学医学部卒業。1990年、同大学産婦人科IVFチームに入る。1993年、荻窪病院に入職。2008年、荻窪病院虹クリニックを開設し、院長に就任。2018年2月、明大前アートクリニック開設。医学博士。日本産科婦人科学会専門医。日本生殖医学会・生殖医療専門医。日本産科婦人科内視鏡学会評議員。

子宮内膜の遺伝子を調べて適切な移植時期を推定

 ERA(子宮内膜着床能)検査は不妊治療に関する検査の中では比較的新しく、当院では4年ほど前からご希望する患者さんに受けていただいています。
 この検査は子宮内膜の着床のタイミングを評価するもの。子宮内膜の組織検体から抽出したRNA(一時的に遺伝情報を保存する物質)を分子生物学的方法としてN G S( 次世代シーケンサー)を用いて2 3 6 個の遺伝子を解析することで、着床の適切な時期を判断します。
 子宮内膜が胚を受け入れるために最適な状態になり、着床が可能になるタイミングを「着床の窓」と呼んでいます。皆さんもこの言葉を見聞きしたことがあるのではないでしょうか。
 一般的に、着床の窓は排卵日から5日前後、ホルモン補充周期ではプロゲステロン投与から5日前後に開かれると考えられています。これには個人差があり、ずれが起きていると通常の日程で移植してもなかなか着床しないのではないか――。不妊治療においてこのことは以前から課題となっていました。
 E R A 検査が開発される前にも「子宮内膜日付診」といって、排卵後5 ~ 6 日目の子宮内膜組織を採って顕微鏡で観察し、着床可能な時間帯を調べる検査がありましたが、これは検査をする人によって精度のムラや診断に違いがあり、その正確性には疑問があったのです。
 ERA検査は遺伝子を解析するので誰が行っても結果が変わらず、高い再現性で患者さんの着床の窓を推測できます。これは画期的なこと。ERA検査に関する学会の報告などを一通り調べ、採用する価値は十分あると思い、当院でも導入することを決めました。

検査費用は14万円程度。解析は海外で行います

E R A 検査は体外受精( もしくは顕微授精) において、形態的に良好な胚を複数回移植したにもかかわらず着床しない方におすすめしています。

検査の方法ですが、ホルモン補充周期の場合は黄体ホルモン投与開始日を0として5日目に、自然排卵周期の場合は排卵日から5日目に子宮内膜を採取します。

外来でできる検査で、時間にしたら5分程度。組織を採取する機械を挿入する時に軽い下腹部痛を感じる患者さんもいらっしゃいますが、ほとんどの方は問題なく受けられています。

少しネックになるのが費用と検査結果にかかる時間。当院の場合だとE R A の検査料は14万円( 税抜)。ほかの不妊検査と比べて高額なので、経済的な理由で迷う方もいらっしゃるようです。また、採取した検体は海外の機関に送って解析するため、結果が出るまで3 週間程度かかってしまうのですね。

ERA検査をして子宮内膜と受精卵の時間が合っていれば通常通り、標準的な時期に戻しても問題はありませんが、ずれていたら移植の時期を通常より前や後ろにしたほうが好ましい。当院の場合、検査を受けた方全員ではありませんが、結果を参考にしてうまく着床・妊娠した方もいらっしゃいます。なかなか着床しないという方は受けてみる価値はある検査なのではないでしょうか。

検査の内容や費用、これまでのデータなどよくご説明して選択肢の一つとして提案します。検査を受けるかどうかは最終的には患者さんに決めていただいています。

先進医療は経過を見ながら段階を踏んでご提案

2022年の春から不妊治療に保険が適用されるようになりましたが、現状、ERA検査は先進医療になっています。先進医療とは厚生労働大臣が認める高度な医療技術や治療法、検査などのうち、有効性や安全性の一定基準は満たしているものの、保険適用外(自費診療)の治療のことです。

保険診療では保険診療と自費診療を併用した診療は認められていませんが、先進医療の承認を受けたものは併用が可能となっています。「混合診療ができるのなら受けたい」と願う患者さんもいるかもしれませんが、先進医療は経済面などを考えるとやはりハードルが上がってしまいますよね。

当院では、ERA検査をはじめ、先進医療は受ける価値があるものと考えていても、一度にすべてを患者さんにご提案することはありません。いきなり全部おすすめしても患者さんは「どうしよう」と迷ってしまうはず。選択肢が多すぎるのも良くないことだと思います。

治療の結果を受けて、その段階ごとに患者さんが受けやすい検査をご提案。着床不全の場合は、まずは費用も手頃で採血だけで簡単に調べられる免疫の検査などをおすすめしています。それでも原因がはっきりせず、治療結果も出ないという場合は子宮内細菌叢の検査やERA検査を。その先となると胚盤胞の異常を調べるPGT -A(着床前染色体異数性検査)などもあると思います。

治療の経過を見ながら適切なタイミングで、その方にとっての必要性、費用などを考えながら、受けるべき検査をご提案していくように心がけています。

ERA検査

●どんな治療?

子宮内膜の組織を採取し、次世代シーケンサーを用いて遺伝子を解析することで着床の適切な時期を判断する検査。

●かかる費用や期間は?

先進医療(保険適用外)なので検査費用は14 万円程度。海外で解析するので結果が出るまで3週間ほどかかる。

●どんな人が受けるといい?

おもに形態的に良好な胚を複数回移植したのにもかかわらず、なかなか着床しないという人が対象に。

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全記事、不妊治療専門医による医師監修

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