タイムラプスって何?

国から先進医療に認められ、胚培養に欠かせないというシステム「タイムラプス」。
どんな働きやメリットがあるのか、2014年よりタイムラプスを使っている福井先生にお聞きしました。

福井ウィメンズクリニック 福井 敬介 先生 日本大学医学部卒業。卒業と同時に愛媛大学産科婦人科に入局。愛媛大学大学院医学専攻科修了。2000年愛媛大学産科婦人科学助教授。2001年、「高度な生殖医療をより身近な医療として不妊カップルに提供したい」と福井ウィメンズクリニックを開設する。

卵のストレスを軽減し詳細に発育過程を観察

そもそもタイムラプスとは、1枚ずつ撮影された写真をつなぎ合わせて、コマ送り動画にする撮影手法です。いわゆる連続の動画映像ではなく、正式にはタイムラプスシネマトグラフィーといいます。その機能が顕微鏡についたと思ってもらっていいと思います。治療において、内蔵カメラと顕微鏡を備えたインキュベーターの中で胚の写真を撮影し、それを1枚ずつつなぎ合わせることで動画のように受精卵を観察することができます。

タイムラプスを使っていなかった時は、胚を培養器から取り出してピンポイントで観ることしかできませんでした。そうするとその時点での状態しかわからず、情報量が少ないというデメリットがありました。タイムラプスではコマ送りの連続で卵の様子を観察でき、分割の過程をすべて記録しているために後で見直すことも可能になりました。

また、以前はその都度培養器から外に出さなくてはならなかったのですが、タイムラプスでは卵が環境の変化に影響を受けることが少なくなりました。それから、いろいろな人の目で観ることができるので、一人で判断するのではなく、みんなで共有して評価できるようになりました。そしてこの動画を患者さんに観ていただくことで、卵が動いているのを観察できるので「生命」を実感し、親近感がわくのではないでしょうか。最近はスマホで動画を観る時代ということもあって、患者さんに観ていただくことで評価や説明に対して説得力がありご納得いただけることが多く、伝わりやすくなりました。

タイムラプスは胚培養に欠かせないシステム

今春から不妊治療の一部が保険適用になり、タイムラプスは先進医療として国から認められました。本来、保険診療と自由診療の組み合わせは混合診療とされ、保険が使えませんでしたが、先進医療と認められた治療との併用は保険診療そのままに、先進医療のみ自費で治療を受けることができます。

不妊治療に欠かせないタイムラプスですが、あえてデメリットをいうと、機器が高額だということです。そのため、すべてのクリニックで導入されているわけではありません。しかし、不妊治療の保険適用を機に多くのクリニックで採用する動きがあるようです。ただ、海外、特にヨーロッパの情勢の影響もあり、なかなかスムーズに導入できていないという現状もあるようです。

当院では2014年からタイムラプスを使っていて、今使用しているのは第2世代の機器です。より高い解像度での観察が可能となり、さらに安定した培養環境を提供することができるようになりました。AIを搭載した新しい機器も出てきているようです。受精卵の評価をAIにさせるというシステムで、すでに導入されたクリニックもあるようです。人が評価するのではなく、AIが評価するという時代がすぐそこまで来ているのです。

より安定した培養環境で妊娠率の向上へ

私はタイムラプスはすべての人に必要だと思っていて、当院では全例において使用しています。そのため、使用する、しないという線引きはありません。ただ、費用が若干かかることもあるので一応ご相談はします。使用するメリットが大きいので、お断りされる人はいませんでしたね。ちなみに費用は平均的に3万円前後だと思います。

タイムラプスを導入したことで、まず培養成績が良くなり、胚盤胞になる確率がアップしました。また胚にストレスがかからないので発育スピードが上がりました。発育スピードも良い卵の評価の一つですので、より良い培養ができているということです。また、発育過程の違いが出てくることがあるのですが、それらのファクターも加味して「どの卵が一番妊娠に近いか」を選別することが容易にできるようになりました。それを数人の培養士で確認して選択ができ、より妊娠率の向上につながっています。良い胚盤胞を育てるために、欠かせないシステムなので、おそらく早めに保険適用になる技術だと思います。

タイムラプスのメリット

①胚にやさしい

タイムラプスを使えばインキュベーターから出さずに胚を観察できるので、培養環境を向上させることができます。

②妊娠に至るまでの時間を短縮

正常に発育する胚を優先して移植することや、常にモニタリングしている胚に何か問題があった場合の早期の発見と対応は、安心な管理の実現と妊娠に至るまでの時間を短縮することができると言われています。

③胚の成長を確認できる

移植する胚の説明を受ける時に画像や動画を見ることができます。凍結保存した胚を融解して移植する時も過去の動画にアクセスして見ることができ、胚の選択に利用することができます。

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全記事、不妊治療専門医による医師監修

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