日本の生殖補助医療(A R T)の実施件数は、1990 年代から現在まで右肩上がりで上昇しています。日本のA RT の現状を集約した『A R T データブック』( 日本産科婦人科学会) を参考に、これまでのA R T の治療成績や年齢別の傾向について、英ウィメンズクリニックの江夏イーシェン先生に解説いただきました。
約7.6人に1人がARTで生まれる時代
1990 年頃から行われてきた日本の生殖補助医療(ART:体外受精・顕微授精・胚移植などの治療、方法が含まれる)は、その後の技術進歩により、2019 年には総治療周期数は約46万人、流産を除く生産周期数は約6万人に上っています。
ARTが普及した理由は、2004 年から徐々に拡充されてきた自治体の助成金制度も大きいと思います。これにより治療を受ける人の経済的な負担が減ったのと同時に、心理的な安心感も得られたのではないでしょうか。
日本産科婦人科学会の報告では、2016年にARTを用いた総治療周期の平均年齢は38・1歳。40歳以上の割合は40%を超えています。ARTの1回の移植あたりの妊娠率は、35 歳未満では40%を超えます。しかし、35歳以上になると妊娠率は徐々に低下し、40歳では30%を下回ります。それと同時に35歳あたりから流産率が高くなるため、さらに出産率は低下する傾向があります。個人差はありますが、年齢が高くなるにつれ染色体数が変化し、着床不全や流産が起こりやすくなります。データからもわかるように、不妊治療は早めに取り組むことが重要です。
ARTについて学び、自分に合った選択を
ARTのメリットは、1周期あたりの妊娠率が他の治療に比べて高いことです。体外受精の1回の移植あたりの妊娠率は、35歳未満で40%なのに対し、人工授精の1回あたりの妊娠率は10%弱です。体外受精はタイミング法や人工授精とは違い、卵管を経由しないため、卵管狭窄や卵管閉塞の場合も妊娠が可能です。また、排卵誘発剤を使用して1周期に複数個の受精卵ができれば、妊娠率が向上します。また、顕微授精は、以前は治療が難しいとされてきた乏精子症や精子無力症などの男性不妊症に効果を発揮します。
一方でARTは通院回数が増えることや、自己注射など痛みを伴う処置が必要になります。リスクとして出血や卵巣過剰刺激症候群などの合併症がまれに起こることもあります。これまでARTの治療費は高額でしたが、今年4月からの保険適用によって負担はかなり軽減されています。
ART治療に進むと、はじめての方には聞きなれない専門用語がたくさん出てきます。当院は体外受精を検討される方にウェブ説明会や動画で詳しい治療の解説を行っています。これらを活用してメリットとデメリットなどを事前に学んでおくと、医師と相談しながら自分に合った治療方法をうまく選択することができると思います。