卵管造影検査で卵管水腫を見落とすことはありますか?

蔵本ウイメンズクリニック 蔵本 武志 先生 久留米大学医学部卒業、山口大学大学院修了。山口県立中央病院産婦人科副部長、済生会下関総合病院産婦人科部長を経て、1990年オーストラリア・PIVET メディカルセンターへ留学。帰国後、1995 年蔵本ウイメンズクリニック開院。JISART(日本生殖補助医療標準化機関)理事長。久留米大学医学部臨床教授。
ラビさん(39歳)約10 カ月前に卵管造影検査を行い、その時は両方とも通っていると診断されました。子宮鏡検査では筋腫はあるものの問題ない程度です。その後AIH を数回試みましたが妊娠には至っていません。先日、腰痛のため整形外科でレントゲンを撮ったところ、造影剤の塊が写っており「卵管造影の時の造影剤で卵管水腫では」と言われました。MRI や子宮鏡検査も受けたのに見つからないことがあるのでしょうか。

卵管水腫とはどのようなもので、検査で見落とすことはあるのでしょうか。

蔵本先生● 卵管水腫は、卵管の先端の卵管采が炎症や子宮内膜症などの原因で癒着して詰まった状態になった時に起こります。子宮卵管造影検査(HSG)では、棍棒状に腫れた卵管が見られ、造影剤の腹腔内拡散像が見られません。HSGをしっかり行い、拡散像まで見れば、よほど小さい卵管水腫でないかぎり、見落とすことはないと思います。

ラビさんの診断について、どのような印象をもたれましたか?

蔵本先生●通常、子宮卵管造影の時に卵管水腫の診断をします。ラビさんは、両側とも卵管が通っているので、HSG時の拡散像のX線で異常がなければ卵管水腫ではないと思われます。
 卵管造影検査で使用する造影剤には、水溶性と油性の2種類があり、水溶性のものは後に残らないのですが、油性のものは比較的長期間残るため、今回使用されたのは油性造影剤ではないでしょうか。それが整形外科のX線検査の時に残っていたと思われます。ちなみに、妊娠率は油性造影剤のほうが高くなります。
 また子宮鏡検査だけでは卵管水腫はわかりません。子宮鏡検査をする場合は、月経終了後から排卵前に行いますが、その時に選択的卵管通水法という、子宮鏡から卵管口に細いカテーテルを1cmくらい挿入して、そこからインジゴカルミンという色素を注入します。色素がスムーズに卵管内に入れば、卵管水腫は否定できるのではないでしょうか。おそらく卵管の手術をする必要はないのではないかと思います。

卵管水腫がある場合のステップアップについて教えてください。

蔵本先生●時に、卵管水腫内に感染が起こると卵管膿瘍となり、疼痛、発熱が起きたりすることがあります。この場合は抗菌薬による治療を行った後、卵管切除をします。
 また著明な卵管水腫があると、卵管液が子宮内へ逆流することがあり、着床率は下がります。もし卵管水腫があり、何度胚移植しても着床しない場合は、まず卵管水腫を経腟超音波エコー下に穿刺して内容液を吸引し、抗菌薬を投与しながら胚移植を行います。これでも妊娠しない場合は卵管水腫のある卵管の起始部(子宮との境)を着床率改善の目的で腹腔鏡下に切断したり、場合によっては卵管水腫側の卵管を切除することがあります。
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