20 〜40 代の女性に多く見つかり、妊娠前だけでなく妊娠後の赤ちゃんへのリスクも高いとされる甲状腺の異常。うめだファティリティークリニックの山下能毅先生と、甲状腺の病気に詳しいおおさか内分泌診療所の谷本啓爾先生に、「妊娠と甲状腺の関係」について教えていただきました。
妊活中の女性は特に注意!潜在性の甲状腺機能低下症
谷本先生●甲状腺は首にある蝶々型の臓器で、新陳代謝を活発にする甲状腺ホルモンを分泌します。甲状腺機能の異常は分泌量が基準値より多い「亢進症」と、少ない「低下症」に大きく分けられます。
山下先生●なかでも当院に多いのが「潜在性の甲状腺機能低下症」です。甲状腺ホルモンは卵胞の発育や胚の成長、着床などに影響します。潜在性の低下症は健康な女性の3〜6%とされていますが、不妊検査をした方ではその10〜20%に見受けられます。TSH(甲状腺刺激ホルモン)の値が2.5〜5mIU/ml未満では産婦人科でお薬を処方し、定期的に血液検査と経過観察を行います。一方、5mIU/ml以上になると甲状腺の専門医による治療が必要になります。※TSH2.5mIU/ml以上で抗TPO 抗体(抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体)が陽性でも専門治療が必要です。
谷本先生●潜在性の低下症(TSH5〜10mIU/ml)は、「低下症」にはならない軽度低下している状態です。特に妊活中は不妊や流産率が高くなるとされているため、TSHの数値をしっかり管理し、甲状腺ホルモンを通常より多く補う必要があります。まずは橋本病など甲状腺ホルモンが出にくい病気の有無を調べるため、血液検査とエコー検査を行います。その後、結果に合わせて妊娠に必要な甲状腺ホルモンをお薬で補いながら定期検査を行い、TSH2.5mIU/ml未満を目指しています。
妊娠率の向上を目指して生殖と甲状腺の専門医が連携
山下先生●これまで甲状腺の治療を受けた100 人以上の方のほとんどが妊娠されています。TSHを適切に管理すると体外受精だけでなく、一般不妊治療の妊娠率も向上します。甲状腺の専門医と連携することで、患者さまの安心につながっています。
谷本先生●不妊治療はその方の状態で、治療方針が急に変わることもあります。特に体外受精の場合は着床のことも考え、移植の直前まで最適なTSHを保つように心がけています。また、それぞれの治療や検査の過程では甲状腺のほかの病気が見つかったり、TSHが大きく変動することもあります。その時は不妊治療を一時休止し、甲状腺の治療に専念していただけるのも連携による利点です。
山下先生●さらに妊娠中の甲状腺機能低下症は、妊娠高血圧症候群、流死産などのリスクを高めます。当院を卒業した方が妊娠〜出産後も甲状腺の管理をしてもらえるのは心強いと思います。
谷本先生●甲状腺の異常は妊娠中期、後期よりも出産後に悪化することがあります。特に甲状腺の病気がある方は出産後の定期検査も大事です。出産後の甲状腺機能を管理することで、次の挙児希望にあわせて経過をサポートすることができます。
早めの治療で妊娠は可能婦人科で甲状腺の検査を
谷本先生●甲状腺の異常は不妊の検査で見つかることが多いです。特に甲状腺ホルモンは妊娠すると分泌量が変化しやすいため、妊活中から適切に保つことが大切です。異常が見つかっても治療を行えば、妊娠率を向上させ、流産率を減らすことができます。これから妊娠を希望される方はブライダルチェックや婦人科の検査をぜひ受けましょう。
山下先生●重度の甲状腺機能低下症では、月経不順や過多月経を伴ったり、ほかの疾患が隠れていることもあります。気になる症状があれば放置せずに婦人科に相談してください。早期に甲状腺疾患を治療することで自然に妊娠できる可能性もあります。そのためにも普段から適正なBMIを保ち、葉酸のサプリメントなどで受精率や妊娠率を高めておくことが大切です。