精子検査の結果、「体外受精しか方法がない」といわれて困惑している相談者さん。精液検査が異常値になったときに推奨される検査回数や、これからの治療について、ゆめクリニックの太田信彦先生に伺いました。
レモンさん(34歳)3人目の妊活中です。1人目と2人目は自然妊娠で授かりました。離婚し再婚。今の主人と3人目の妊活ですが、なかなか授からないので先月からクリニックに通い始めました。フーナーテストの結果がゼロで、体外受精しか無理とのこと。精液検査では運動率、正常形態は基準超えでしたが、精子濃度が悪くて精子が700万匹しかいませんでした。先生から「人工授精もできない数値だから、体外受精しかできません」といわれてしまい、夫婦ともに困惑しています。1回目の精液検査だけでの判断に不信感もあります。本当にこの数値での人工授精は無理なのでしょうか? 上に子供2人おりますので体外受精まで踏み切れず、妊活をやめようかと主人と話し合っております。 回答よろしくお願いします。
精液検査が異常値のときは少なくとも2回の検査が一般的
レモンさんのご主人は結婚歴やお子さまを授かった経験がある方でしょうか。それによってお答えする内容が少し変わりますので、ここでは「お子さまがいない」という前提でお話をします。WHO(世界保健機関)の精液検査の基準値に照らし合わせると、精子濃度700万/mlは異常値にはなります。ただ、精子検査で異常値の場合は、少なくとも2回は検査を行って判断されるのが一般的です。
限られた相談内容からの判断になりますが、もしご主人に2回の精液検査で同じような数値が出ても、自然妊娠や人工授精で妊娠する可能性は十分にあると思います。運動率と正常形態率は悪くないですし、総運動精子を計算すると1960万/mlとなり、人工授精が有効とされる基準値(1000万/ml)を超えています。まずは人工授精を何回か試されてはいかがでしょうか。
人工授精を行って妊娠した方の多くは3〜4回までに妊娠されています。また、統計データでは6〜7回の時点で、成功率は頭打ちになることがわかっています。一般的に37歳ごろから妊娠率のカーブが下降するとされていますので、年齢に余裕のある方は6〜7回、年齢に余裕がない方は3〜4回を目安にされるといいでしょう。
フーナーテストの再検査や余裕があれば抗精子抗体の確認を
フーナーテスト(性交後試験)についても1回だけでなく、少なくとも2回は検査して判断されたほうがいいと思います。そもそも膣内にきちんと射精できていない可能性もあります。
また、排卵日前の頸管粘液が多く分泌される時期に検査が適切に行われているかということも重要です。たとえば、まだ卵胞が十分に発育していない頸管粘液が少ない時期での検査では、精子の動きは悪くなる可能性があります。
フーナーテストで異常があった場合は、抗精子抗体(精子の動きを止めて受精を妨げる抗体)の存在が疑われることがあります。女性側は血液検査で簡単に調べることができますので、余裕があれば検査を受けてみるのも一つです。通常の陽性率は3〜5%とされています。抗精子抗体が強陽性であれば、人工授精をとばして体外受精の適応になります。
治療の正解は一つではないそのなかで納得できる選択を
施設やドクターによって検査や治療に対する考え方には多少の違いがあり、正解は一つではありません。レモンさんの先生も、「人工授精だと妊娠までに時間がかかるかも」という先生なりのお考えがあって体外受精を勧められたのかもしれません。
いろんな考え方があるなかで、大事なことはご夫婦が十分に納得して治療を受けることだと思います。もし提案された治療に納得できないときは、先生に納得できるまで説明してもらいましょう。それがむずかしいようであれば、こういった第三者機関に相談したり、他の施設を受診されるのも一つです。
それによって、また違った治療の選択肢が出てくるかもしれません。どのような結果になるとしても、ご夫婦が納得して治療や検査を選択されることが、最終的な満足につながるのではないかと思います。