PCOS(多囊胞性卵巣症候群)の治療ではどんなことに気をつけるといいのでしょうか? うめだファティリティークリニックの山下先生と井川先生に教えていただきました。
妊娠適齢期の約10%を占めるPCOS の症状や原因とは?
PCOS(多囊胞性卵巣症候群)は卵巣でつくられる男性ホルモンの影響で、LHとFSH のバランスがくずれ、卵胞が十分に成熟できず、排卵しにくくなる疾患です。妊娠適齢期の一般女性の6〜10%にみられ、当院で不妊治療をされている20〜30%の方に認められています。次の診断基準をすべて満たすとPCOS と診断されます。
(1)月経異常
(2)多囊胞性卵巣
(3)血中男性ホルモンが高い、またはLHの基礎値が高く、FSH の基礎値が正常
症状には無月経、月経不順、排卵障害、肥満などがあり、悪化すると不妊症につながります。また、複数の症状を合併するなど、症状の現れ方はさまざまです。たとえば、BMI が25以上の肥満の方は、インスリン抵抗性を伴いやすいとされています。
PCOS と診断された場合は、お薬で排卵をうながす治療を行います。ただし肥満の方は生活習慣などを見直して適正体重に近づけることが先決です。
排卵誘発を行う時は多胎リスクを予防する工夫が必要
PCOS の治療は、クロミフェンという飲み薬で排卵誘発を行うのが一般的です。これで排卵しない場合は、ゴナドトロピン製剤という注射薬を使います。最近は自己注射が可能な遺伝子組み換え型FSH製剤(rーFSH)を使った治療が主流で、通院回数を減らせるメリットがあります。
クロミフェンで効果が出ない、または注射薬で卵巣が腫れやすい方には、レトロゾールという自費のお薬を提案しています。クロミフェンは排卵作用とともに子宮内膜を薄くする作用があります。一方、レトロゾールは子宮内膜にやさしく作用して排卵をうながします。それでも排卵しない時は、腹腔鏡下卵巣多孔術という外科治療や体外受精が適応になることもあります。卵巣に卵胞がたくさんできやすいPCOSの方は、排卵誘発を行うと過排卵しやすく、多胎のリスクが高まります。1つの卵子を用いて受精させる体外受精にくらべ、一般不妊治療はPCOS以外の方にも、もともと排卵をコントロールしにくい特徴があります。PCOSの方には卵胞がたくさん育たないようにお薬の量を調整し、週2〜3回のエコー検査で卵胞チェックを行って単一排卵をめざす工夫が必要です。この時に大きな卵胞が3〜4個確認されたら、多胎のリスクを考えて治療を中止することもあります。
一般不妊治療で妊娠をめざせます。諦めずに治療を続けましょう
PCOSの排卵誘発に伴うリスクには多胎のほか、OHSS(卵巣過剰刺激症候群)があります。おもにHCGの注射で排卵誘発した時に、卵巣が過剰に反応し炎症を起こす病態です。ただ、最近は単一排卵をめざす排卵誘発が中心ですので、OHSSを伴うことはほとんどありません。
非常にまれなケースでは、やせ型の女性などにOHSSがみられることがあります。この場合は、スプレキュアⓇという点鼻薬や、お薬の作用時間が短く、卵巣が腫れにくいオビドレルⓇというHCG製剤の注射を検討します。また、妊娠後は胎盤から分泌されるHCGに反応し、OHSSの症状が続くことがありますので注意が必要です。
PCOSは月経異常を伴うことが多いため、特に年齢が若い方に見つかりやすい疾患です。妊娠を希望される方は、基本的には一般不妊治療で妊娠をめざすのがいいと思います。PCOSの方は未熟卵のことが多く、いきなり体外受精に進んでも良好な卵子が採れにくいため、分割胚にとどまる傾向があります。一般不妊治療では排卵を目的とした排卵誘発は必要ですが、男性の精子の状態に問題がなければ、ほとんどの場合は妊娠が可能です。諦めずに治療を続け、心配なことがあれば遠慮せずに先生に相談しましょう。
PCOSと診断されても一般不妊治療で妊娠は可能
PCOSは妊娠適齢期の女性にみられ、月経異常や不妊の原因になることも
PCOSの程度によって飲み薬や注射薬、外科治療、体外受精などを検討
お薬の選択などで排卵をコントロールし、多胎やOHSSのリスクを抑える