非配偶者間人工授精(AID)とは?

非配偶者間人工授精(AID)という方法を知っていますか? AIDの詳しい内容や治療の流れ、現状と課題について、医療法人イワサクリニックの岩浅義彦先生にお話を伺いました。

医療法人イワサクリニック セント・マリー不妊センター 岩浅義彦先生 アメリカ陸軍病院、アメリカ・セントルイス大学病院、カナダ・サスカチワン大学病院の産婦人科医を経て、1982年に鳥取大学教授。1986年開業。「すべての患者さまはV.I.Pである」をスローガンに、アットホームな雰囲気のなかで妊娠から出産までサポート。海外からの患者さまも多く、これまでに取り上げた赤ちゃんは2万人を超える。

AIDについて教えてください

AIDとは、パートナー以外の男性ドナーの精液を用いた人工授精のことです。おもに無精子症など重度の男性不妊と判断された場合に適応されます。他の不妊治療を試しても妊娠する見込みがなく、それでも赤ちゃんを強く希望する法的な婚姻関係にあるカップルが対象です。

AIDについては、海外と日本では考え方などが異なります。たとえば、海外では民間の「精子バンク」がいくつか存在し、精子提供を受ける人の希望に合わせて、精子提供者を人種や知能指数、出身大学、髪や瞳の色などの条件から選ぶことができます。

一方、日本では、日本産婦人科学会が定める「非配偶者間人工授精に関する登録施設」のみでAIDを受けることができます。しかし、AIDができる施設は減少傾向にあり、現在は全国7施設に限られています。精子は施設が選定した精子提供者からボランティアで提供されることがほとんどです。

どのような流れで行われますか?

一般的にAIDは次の流れで行われますが、実施する前に必ず「精子を提供する側」と「精子を提供される側」のお互いの同意が必要です。また、当院ではプライバシー保護のため、精子を提供する側を匿名としています。そのため、生まれてきたお子さまが出自を知ることはできません。

  • 女性と男性の一般不妊検査(一般血液検査を含む)
  • カウンセリング
  • 同意書の署名
  • AIDの実施

カップルの体の状態をはじめ、人工授精に伴う排卵誘発法などを検討するため、まずは一般不妊検査を行います。それとともに「精子を提供する側」と「精子を提供される側」の血液型を合わせることが重要です。

それぞれの検査によってAIDの適応と判断されると、次は不妊カウンセラーからAIDに関する詳しい説明などを受け、カップルの意思を確認したうえで同意書を作成します。

AIDで移植する精子は、感染リスクを抑えるため、標準的な洗浄処置後、凍結保存して使います。また、女性側の妊娠率を上げるため、当院では排卵誘発による刺激周期に、子宮頸管または子宮に精子を移植します。多胎のリスクは少し高くなりますが、刺激周期では良質な卵胞が育ちやすくなります。一般的にAIDの妊娠率は5%程度とされていますが、当院では25〜30%という結果が出ています。

現状と課題について教えてください

私はアメリカの大学で不妊治療に携わった後、約40年前から日本でも赤ちゃんを授かるお手伝いをしています。その一つとして行っているのがAIDです。

先ほどのお話のように海外では民間の「精子バンク」があり、AIDが普及しています。たとえば、アメリカは多様な文化や価値観があり、自分たちの間にできた子どもが2〜3人いても、さらに異なる人種の子どもを授かりたいとAIDを利用するカップルもいます。

AIDは他人の精子を用いることから、日本では適応条件や倫理的、法的なさまざまな問題をクリアする必要があり、AIDはあまり普及していません。さらに、AIDで生まれてきたお子さまが、自分がどのようにして生まれてきたのかを知る「出自を知る権利」に伴う多くの課題もあり、精子提供者が少ないという現状もあります。

日本でも「精子バンク」などの導入を検討し、さまざまな理由でお子さまを授かりたい人の希望を叶えるような多様な価値観も必要ではないかと思います。それが少子高齢化の問題を抱える日本社会の貢献につながるのではないでしょうか。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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