タイミング法や人工授精を何度チャレンジしても妊娠できない――。そんなときに考えなければならないのが体外受精へのステップアップですが、費用の高さや体への負担などの不安もあって、なかなか踏み切れない人も少なくありません。今回の質問者ことみさんもステップアップに悩み、特に「高刺激」に抵抗があるとのこと。山下湘南夢クリニック(神奈川県)の篠田真理先生に今後の方針についてアドバイスをいただきました。

2007年、東海大学医学部卒業後、東海大学医学部付属病院産婦人科医局入局。2012年、日本産科婦人科学会専門医取得、2016年、日本女性医学学会認定女性ヘルスケア専門医取得、臨床遺伝専門医取得、2019年から山下湘南夢クリニック勤務。日本産科婦人科学会専門医、日本女性医学学会認定女性ヘルスケア専門医、臨床遺伝専門医
ステップアップすべきか、また体外受精の刺激法について
陰性が続いています。原因としてどのようなことが考えられますか?
人工授精をされていらっしゃるので、排卵前後のタイミングで十分な数の精子が子宮内に入っているというところまではクリアできています。では、なぜうまくいかないのでしょうか?妊娠が成立するには、排卵される卵子の質、精子と卵子が出会った時受精できるかどうか、そして、妊娠が成立する場である卵管や子宮がしっかり働いているかなどいくつかのハードルがあります。
ことみさんの主治医の先生もおっしゃっていますが、きちんと管理された人工授精を5回やって不成功な場合、それは「人工授精という治療法が、ことみさんに合っていない」すなわち、「十分な数の精子が子宮内に入っていないから妊娠しないのではない」ことを示しています。体外受精や顕微授精は受精の問題や卵管の機能をサポートする治療です。ことみさんの場合、治療がなかなかうまくいかないことで精神的にもストレスが大きいようですので、私が主治医なら、やはりステップアップを提案させていただくと思います。
ステップアップを躊躇する人も少なくありません
生殖医療には相容れない二つの側面があります。一つは、患者さんにとって十分に納得のいく治療であること。納得のいく治療になるためには十分に時間をかけることが大切です。もう一つの側面は、時間とともに年齢とともに妊娠しにくくなるということです。
さらに、治療がうまくいって妊娠、出産され時、そこから、妊娠よりもっと体力や精神力を必要とする育児がスタートするということです。生殖医療にとって時間はとても大切な要素です。時間を無駄にしないために、ひとつひとつの検査や治療をできるだけ正確に積み重ねて治療を行うことが大切だと思います。
ご自分たちの生殖治療における立ち位置を理解され、治療に対する不安を少しでも解消するためにオンラインで行っている説明会をご活用頂ければと思います。
山下湘南夢クリニックでは低刺激による治療を重視されています
高刺激法は排卵誘発剤を多量に使用し、一度にたくさんの卵子を採取します。その反面、患者さんにとっては体に対する負担が大きく、治療費がかさむ欠点があります。
当院の信条は「必要なところだけをサポートして、身体的にも経済的にも無駄のない治療を行い妊娠していただく」ですので、ピックアップが問題なら採卵して精子と卵子を出合わせる、受精障害があるなら顕微授精で受精をお手伝いするという方針で治療を行っています。生殖医療というまだすべてが十分に解明されていない医療分野では、必要で最低限のサポートをして妊娠していただくことが最も安全で無駄の少ない治療であると考えています。
先生が主治医なら、ことみさんにどのような治療を提案されますか?
不妊治療は長期にわたるとストレスもたまりますし、それでメンタルの不調をきたすこともあります。ことみさんはストレスによる中断を経て、再度頑張って治療をされていますので、治療期間を少しでも短くするためにも、ステップアップを勧めると思います。
気になっているのは、排卵誘発剤のクロミッドを3錠も飲まれている点です。服用する容量や期間によって内膜が薄くなり、着床環境の悪化が懸念されます。卵巣の反応が悪くて増量したわけではないのであれば、(保険適応外ですが)クロミッドではなくアロマターゼ阻害剤(フェマーラ、レトロゾール)で排卵誘発されてもいいと思います。いずれにしても、心身ともに健康な状態での妊娠、出産に向けて、ここで疲弊してしまわないよう、前向きに治療に臨んでいただきたいですね。