不育症や着床不全の原因を見つけ、妊娠に近づけるERAとPGT-A検査とは?
着床不全に有効とされる「PGT-A」と「ERA検査」はどんな検査なのでしょうか?
エラちゃん、エマちゃん、アリスちゃんの三姉妹が絹谷産婦人科の絹谷正之先生にお話を聞きに行きました。
ERAはどんな検査なのですか?
ERA検査とは、2011年にスペインの研究グループが提唱し、胚移植の時期と着床のタイミングが合っているかどうかを評価する目的で開発された検査法です。子宮内膜の着床機能を調べるERA検査は個々の移植日を特定する有効な検査として、国内でも導入する施設が増えています。
検査は通常、黄体ホルモンが子宮内膜へ届き始めた時期を特定できる「ホルモン補充周期」で行います。子宮内膜を吸引するように子宮内膜組織を少量採取します。検査時の痛みは人によって差があるようですが、生理痛のような鈍痛を感じることもあるようです。
「着床の窓」って何ですか?「着床の窓」がずれている、とはどういう状態なのでしょうか?
着床に関する一つの概念として、胚が着床できる時期を「着床の窓」と呼びます。通常その期間は月経周期の19~22日目頃とされています。ERA検査では子宮内膜組織より抽出した発現遺伝子(236遺伝子)を解析することにより、「着床の窓」を明らかにすることが可能になりました。
通常は排卵から9日後頃に黄体ホルモンの内膜への作用により、子宮内膜は胚が着床できる状態となります。しかしながら、何らかの原因でそれが通常より早くなったり、遅くなったりすることがあり、「着床の窓がずれている」といいます。なぜずれるのかの原因はよくわかっていません。
ERA検査でどれくらい妊娠率が変わりますか?
最近の研究で、遺伝子の発現パターンで「着床の窓」を調べるERA検査を行い胚移植の時期を調整すると、調整しなかった場合と比べて累積の妊娠率が約1.4倍アップしたと報告されています。当院の成績をみても、ERA検査は一定の効果が期待できると考えています。
着床の窓は、移植のたびに確認する必要がありますか?
これについてはまだよくわかっていませんが、ERAを開発したアイジェノミクス社によると、7例に対して29~49カ月の間に2回ERA検査を行ったところ、1回目と2回目の結果が100%一致していたと報告しています。したがって着床の窓は患者様固有のもので、周期によって変わらないと考えられています。
ただし年齢や体形に大きな変化が起こると、着床の窓が変わってしまう場合があると考えられています。前回の検査から3年以上たっていたら、もう一度検査を受け直すことをおすすめします。
どんな方にERA検査をすすめていますか?
当院では2017年からERA検査を導入し、初診前説明会にて検査について資料をお渡ししています。他院で妊娠に至らず検査を希望された患者様や、比較的良好な胚を複数回にわたり移植しても、まったく着床しない患者様を対象に当院では検査しています。
最近よく耳にするPGT ーA検査ってどんな検査ですか?
反復不成功例の原因は、子宮側と受精卵(胚)側にあると考えられています。受精卵側に問題があると考えられる場合には、移植前に胚の染色体数を調べるPGTーA(着床前胚染色体異数性検査)を行います。この検査をすることで妊娠率は上がります。
PGTーAは受精卵(胚)から数個のの細胞を採取し、細胞の核の中にある染色体の数を調べる検査です。そうすることで、妊娠できる可能性が高い胚か、低い胚かを知ることができ、胚移植当たりの妊娠率を高め、流産率を下げることが期待されている新しい技術です。日本ではまだ臨床研究としてのみ行われている段階ですが、近い将来広く行われるようになると予想されています。ただし、現在のこの技術では受精卵(胚)から細胞を採取する必要があり、胚にとっては少なからず「侵襲」を伴う検査です。将来的には「無侵襲」で胚の染色体の数を調べることができる、さらに新しい技術が開発されることが望まれます。
PGT ーAとERAは組み合わせで行ったほうがいいのでしょうか。
PGTーA検査で正数性の胚が得られた場合、できる限り子宮側の着床環境を整えることはとても重要だと思います。せっかく得られた妊娠の可能性が高い胚を無駄にしないために、「着床の窓」を調べてから胚移植をした方が良いと思います。
胚側についてはPGTーA検査の登場で、ほぼ解決されようとしています。それに伴って近年、子宮側の要因の解決がより重要度を増してきており、ERA検査はその一部を担ってくれるのではないかと期待されています。今後、広く臨床の場で用いられることで、その有効性が検討されていくものと考えられます。
絹谷先生ありがとうございました!