妊娠率が低下する大きな要因の一つが年齢。しかし、年齢が高くても妊娠する人がいるのも事実です。では、40歳前後からの妊活ではどんな心がけが必要でしょうか。また40代前後で治療を始めるときに受けておきたい検査はあるのでしょうか。中央クリニック(栃木県)の本山光博先生にお聞きしました。
着床しないのはなぜ
40代で不妊治療にチャレンジする方はどれくらいいますか
当院で治療を受けておられる方の平均年齢は37~38歳。40代の方も少なくなく、むしろ増えている傾向にあります。年齢的に助成金の給付対象から外れる方もいますが、そのようななかでも皆さん頑張っておられていて、とても感動を覚えます。
30代後半から妊活を始めることについては、女性の社会進出によって結婚の時期が後ろにずれ、妊娠や出産のタイミングも遅れていく。社会がそのような仕組みになっているわけですから、ある意味、仕方のないことだと感じています。とはいえ、平均寿命が延びても生殖可能年齢幅は変わらず、年齢が上がるほど妊娠しにくくなるのは事実です。そこはしっかり理解いただく必要はありますが、一方で悲観的にならず、「絶対うまくいく」という前向きな姿勢で治療に望むことが大切だと思います。
月経が不安定、左卵管閉塞。このような方に先生ならどうアプローチしますか
月経量が少ない方に、排卵の有無、その周期を診るために基礎体温を付けてもらいます。
その上で、ホルモン検査も合わせ最適な排卵誘導法を考えます。タイミング法か人工授精かは、精子の状況などを考慮して決めていきます。卵管閉塞があったとしても片方だけであれば、まずはタイミング法や人工授精を考えます。
40代でも基本的にこの方針は変わりませんが、年齢的な問題があるので、少々スピードアップを図ります。例えば、当院ではタイミング法や人工授精を3~4周期試みて妊娠にいたらなければ、体外受精や顕微授精へのステップアップを検討します。(不妊期間にも依ります)
40代での化学流産について、先生のお考えを聞かせてください
最新の日本産科婦人科学会が発表した「ARTデータブック(2018年)」によると、高度不妊治療を受けた場合の妊娠率は9.3%、43歳だと6.8%になります。40代になると着床することさえ難しいというのが、一般的な見方です。
そう考えると、質問者のいなみんさんは結果的に化学流産になりましたが、42歳という年齢で、2回目の移植で着床されたことはすばらしいと思います。この場合、化学流産は受精卵の側に染色体の異常など何らかの問題があったと考えるのが普通で、少なくともいなみんさんに反復着床不全の可能性は低いと推測できます。今回は残念でしたが、次につながる着床だったと考えたほうがよいでしょう。
40代不妊で重視している検査、日常生活の心がけはありますでしょうか
最先端の医療を駆使しても今の医学では卵子を若返らせることも、卵子の質を客観的に評価することもできません。
しかし、少しずつですが治療選択に有用な検査はできるようになってきました。
当院で実施していることの一つが、先にお話しした排卵の有無。もう一つが、AMH(抗ミュラー管ホルモン)の値です。5~6年ほど前から測定しています。低値だと卵巣予備能がないと判断できるので、無駄な排卵をさせない治療を第一選択肢にします。
日常生活については、ゆとりを持つということでしょうか。不妊治療をしていると、どうしても生活のすべてが「妊活のため」となってしまいがちです。特に40代不妊の方は時間的な制限もあるため、その傾向が少し強いかもしれません。しかし、妊娠は努力で得られるものではなく、何かをすれば妊娠につながるという方法もありません。心にゆとり、余裕を持って向き合っていただけたらと思います。不安や気分の落ち込みは一人で抱えず、カウンセリングなどを利用して心を軽くするということも一つの方法でしょう。