6回移植で陽性なし。移植前に反復着床不全の検査は必要ですか?
セント・ルカ産婦人科 宇津宮 隆史 先生 熊本大学医学部卒業。1988 年九州大学生体防御医学研究所講師、1989 年大分県立病院がんセンター第二婦人科部長を経て、1992年セント・ルカ産婦人科開院。国内でいち早く不妊治療に取り組んだパイオニアの一人。開院以来、妊娠数は9,300 件を超える。
相談者 : たまのさん(40歳)38 歳から治療開始し、不妊治療歴丸2年。4回採卵し、6回移植をするも妊娠判定に至らずにいます。現在は同じ採卵期日での凍結胚盤胞が4個あります。過度な期待はできないと主治医から言われたので、気力のある少しでも若いうちに採卵をと思い、来周期でもう一度採卵して移植を予定。ALICE 検査、EMMA 検査などをして移植に臨む選択肢もあると思いますが、主治医は3回着床しかけているから必要ないのではとの返答でした。私は反復着床不全に該当しないのでしょうか?
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不妊治療歴丸2年のたまのさん。相談内容に気になる点はありますか?
宇津宮先生●たまのさんの治療データで気になるのは3つ。まずは、特に不妊原因がなく、精子も良好ということなのに検査・治療歴に体外受精と顕微授精しか記されていないことです。通常は子宮卵管造影検査や子宮内膜の厚さを測るなど基本的な検査をしてから治療方針を決めるべきなのですが、それら初期の検査を受けたうえで選択しているのだろうか、ということです。
2つめは、移植6回中5回は分割胚で戻しているということ。分割胚から2日後には胚盤胞になり、グレードもよりはっきりとわかりますから、通常は胚盤胞を戻します。今、分割胚で戻すというやり方を選択する医師はほぼいないと思いますから、なぜなのだろうという疑問が残りますね。
3つめは、分割胚を移植後に妊娠成立を示すhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)が分泌されたが化学流産だった、という記述です。3回ともエコーで胎囊を確認できていないようなので、高温期に使用するHCG注射による反応が尿中に出ているだけかもしれません。反復着床不全ではないか、ということですが、化学流産ではなかった場合は別の可能性を考えなければならないので明確にする必要がありますし、それ以前に基本的な検査をきちんと受けていただきたいですね。
移植前に反復着床不全の検査を受けるか悩んでいるたまのさんと、受ける必要がないという主治医の方針。先生なら検査をすすめますか?
宇津宮先生●私なら、反復着床不全の検査はすすめずに、不妊治療の基本的な検査をして残っている4個の凍結胚盤胞を順番に移植します。また、ひと通りの検査をして、子宮の奇形や卵管水腫など明確な不妊原因がなくても妊娠できなければ、時間や経済的負担などを考慮して、着床前胚染色体異数性検査(PGT ‒A)をすすめます。検査は手続きに1カ月程度かかり、それが済んでから採卵、検査という流れなので、もしPGT ‒Aを考えるならなるべく早く進めていただきたいです。
40歳の染色体が正常な胚盤胞は1〜2割程度ですが、たまのさんは胚盤胞まで4個成長しているので反応は良いほうだと思われます。4個中2個は比較的グレードが良いという好条件もあります。しかし、1〜2年で状況はどんどん変わりますから、スピード感をもって治療に臨んでいただきたいですね。