子宮頸管拡張について~藤本先生

子宮口が狭くカテーテルが入りにくい…このような状態は妊娠率に影響を及ぼすのでしょうか?

さっぽろARTクリニック 藤本 尚 先生に聞いてみました!

藤本 尚先生

日本産科婦人科学会認定 産婦人科専門医、臨床細胞学会細胞診専門医。札幌医科大学産婦人科、神谷レディースクリニック 副院長を経て、医療法人社団 さっぽろARTクリニック開院し理事長に就任。2019年5月 医療法人社団 さっぽろARTクリニックn24開院。

Waiwai さん(34歳)1回目の凍結胚移植の際、子宮口が狭くカテーテルが入りにくく苦戦した経緯があったため、 今回、凍結胚移植日の「1週間前」に頸管拡張の処置を受けました。 

具体的にどのような処置をしたのか説明がなかったのですが、局所麻酔で、重い痛みを伴うもので した。 

細い器具を挿入するタイプのものだったのかもしれません。 

通常、「移植の1週間前」にこのような処置をすることはあるのでしょうか。 

インターネットで調べると、「子宮内膜が傷つくので、移植直前ではなく前周期に行うべき」とか、「前 日/当日に吸湿性頸管拡張材を挿入する」という投稿はあったのですが、あまり詳しい情報は得ら れませんでした。 

なお、昨日処置をしたのですが、お腹の痛みと出血があります。 

着床に悪影響がないのか、心配です。 

また、カテーテルが入りにくく苦戦した(時間がかかった)場合、凍結胚への影響はあるのでしょう か。 

痛みで子宮が収縮したりすることで、妊娠率が下がるといったような可能性もありますか? 教えて頂ければ幸いです。

 

今回のご質問に関してですが、なかなかデータのないものなので、論文(データ)による科学的根拠によるものではなく、経験則に基づくものであることを、はじめにお断りさせていただきます。

 

◆子宮頚管拡張について

初めに、胚移植を行う際に、カテーテルが入りにくいパターンは2つあるかと思います。一つは子宮の屈曲が強いためにカテーテルが入りにくい場合、一つは頸管が狭くカテーテルが入りにくい(入らない)場合があります。私は後者の場合には事前に頸管拡張を行うことがあります。過去に子宮頚部の円錐切除術などを行った方など、子宮口(子宮の入り口)が狭い、というよりほとんど閉鎖しているような方がいるからです。そうすると、そもそも子宮口さえどこかわからないこともあります。

頸管拡張を事前に行うような方の場合、子宮頚管に針さえ通るか?というくらいの方なので、私自身は採卵と同じ麻酔(静脈麻酔)を施し、生理中に行うようにしています。生理中に行う理由は、そもそも入口さえわからない人の場合には生理の出血がどこから出ているかで子宮口を確認できるからです。

頸管拡張は、はじめに細い針くらいの管を入れて少しずつ太い管を入れていき、子宮口と子宮内の通路である子宮頚管を広げていきます。一度子宮頚管を広げても、時間の経過で(数日から数週間かけて)狭く元に戻っていきますので、カテーテルより太い管が入るまで広げていきます。この処置は痛みを伴う処置になりますので、患者さんにとっては麻酔かけますし時間もかかる(手術時間は10分程度ですが、麻酔合わせると数時間)ので少し大ごとにはなってしまいますが、その処置の必要性を説明しご理解いただき麻酔下で行うようにしています。

改めてご質問の件ですが、

 

◆移植の1週間前に子宮頚管の拡張処置をすることはありますか?

ご質問の頸管拡張の時期について、国内においてやる時期のルールは存在していないので、各先生によって異なると思います。

あくまでも、私に関して言えば、月経中(生理2-4日目)に麻酔下で処置を行うようにしています。また、周期は移植周期の生理中、あるいは移植前周期の生理中に行います。場合によっては採卵の際に、麻酔下で採卵を行い、採卵終了後にそのまま、頸管拡張処置をすることもあります。その場合には、また子宮頚管が狭くなっていると困るので、移植周期の前周期にカテーテルが入るかのリハーサル(実際の移植カテーテル使って、胚は入れずにカテーテルが入るかの事前確認)を行うこともあります。

 

◆出血がある場合に着床に影響があるのか?

頸管拡張後は多少なりとも出血は伴うことが多いです。これは子宮頚管(子宮の入り口と子宮内の通路)を広げることで、多少の傷がついてしまうもので子宮内膜を傷つけているわけではない(と思う)ので、数日で収まることが多いです。子宮内膜を傷つけていなければ着床に影響は与えないと思います。

◆カテーテルが入りにくく苦戦した場合に凍結胚への影響はありますか?

ここで言う”カテーテル”は外套(がいとう)という外側のカテーテルになります。胚移植はまず、外套に当たる一番目の少し太いカテーテルを内子宮口(子宮頚管の奥で内膜がある子宮体部の手前)まで挿入し、それに続けて胚を入れた細くて柔らかいカテーテルを挿入していき、内子宮口からさらに子宮体部まで進めていき、胚を移植します。難渋するのは一番目のカテーテルなので、それさえ入ってしまえば、2番目の胚の入ったカテーテルはスムーズに入っていきますので、仮にはじめのカテーテルの挿入に難渋しても、胚には影響はないと思います。

 

◆痛みで子宮が収縮したりすることで、妊娠率が下がるといった可能性もありますか?

これについては、可能性がある場合があると思います。子宮の収縮(蠕動運動)が強いと妊娠しづらいという研究があり、現在はMRIで評価して子宮収縮が強い(子宮蠕動が多い)人の場合には収縮を抑える薬を内服する場合があります。 実際に子宮に異物を入れると子宮収縮が誘発される場合があります。私も移植後に痛みが続く人の場合や、移植の際に実際に子宮収縮が観察される方の場合には子宮収縮抑制剤を内服していただくことがあります。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

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