奥裕嗣先生の不妊治療はじめて講座

タイミング療法や人工授精などの一般不妊治療よりも一歩進んだ高度不妊治療。どのような人を対象にした治療法でしょうか。治療の内容や流れについて、レディースクリニック北浜の奥裕嗣先生に教えていただきました。

奥 裕嗣 先生(レディースクリニック北浜)1992年愛知医科大学大学院修了。蒲郡市民病院勤務の後、アメリカに留学。Diamond Institute for Infertility and Menopauseにて体外受精、顕微授精等、最先端の生殖医療技術を学ぶ。帰国後、IVF大阪クリニック勤務、IVFなんばクリニック副院長を経て、2010 年レディースクリニック北浜を開院。医学博士、日本産科婦人科学会専門医、日本生殖医学会生殖医療専門医。

高度不妊治療はどのような治療法ですか。

タイミング療法や人工授精を続けても妊娠に至らない場合、さらに高度な技術を必要とする不妊治療を高度不妊治療(ART)といいます。高度不妊治療には「体外受精(IVF)」と「顕微授精(ICSI)」があります。

「体外受精」は卵子と精子を体外に取り出し、受精させてから子宮に移植する方法です。もともとは1978年、英国でロバート・G・エドワーズ博士らにより、両側の卵管に問題がある方のために開発されました。現在は卵管因子をはじめ、免疫因子、また、原因不明や難治性の不妊、年齢が高い方などにも有効な治療法です。たとえば妊娠適齢期の方ではタイミング療法を約6カ月(5〜6回)、人工授精を約6回行っても結果が出ない場合に体外受精が検討されます。

「顕微授精」は、顕微鏡下で細い針を用いて、1個の精子を卵子の中に注入して受精を手助けする方法です。精子の受精能力が弱く受精が難しい受精障害や、無精子症、重度の乏精子症にも有効です。顕微授精の登場により、パートナーの卵子に問題がなければ、男性不妊のほとんどが治療できる時代になりました。

体外受精の治療の流れを教えてください。

体外受精・顕微授精は、①排卵誘発(卵胞を育てる)、②採卵・採精(卵子と精子を採取する)、③受精(卵子と精子を体外で受精させる)、④胚培養(胚を育てる)、⑤胚移植(胚を子宮に移植する)の5つのステップを経て行われます。

体外受精で妊娠率を高めるためには、1度に複数の良質な卵子を得ることが大事です。当院では初診時の採血でAMH(抗ミュラー管ホルモン)を調べて卵巣年齢を評価します。その数値に応じてそれぞれの方に最適な排卵誘発の方法をご提案しています。

多くの場合、アンタゴニスト法が第一選択となります。これまで主流とされていたロング法やショート法と比べても胚(受精卵)の質や採卵数は変わらず、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクを5分の1に軽減できるといわれています。アンタゴニスト法でも卵胞の数が少ない方はショート法に変えたり、卵胞の数が極度に少ない方はクロミッドⓇという飲み薬とH M G、FSHといった注射を150 IU単位で少量ずつ投与する自然周期法を選ぶこともあります。

胚移植の過程で、受精卵が4〜8分割の状態になると、少しでも妊娠の可能性が高い良質な胚から移植します。当院ではタイムラプスインキュベーターを導入し、胚の形態のほかに、見た目ではわからない胚の成長過程を24時間ごとに観察し、精度の高い評価を行っています。

いい卵子をつくるために患者さんにできることはありますか?

栄養バランスのとれた食事とリラックスを心がけるほかに、メラトニンというサプリメントの摂取をおすすめしています。メラトニンには活性酸素を除去する抗酸化作用があり、卵子の成熟率や胚の成長率を高めるなど、総体的に卵子の質を向上させる効果が期待されています。

体外受精がうまくいかない原因には、卵子側の問題だけでなく、子宮に問題が潜んでいることもあります。当院では着床不全が考えられる方に、不育症検査を応用した治療を行っています。子宮内の血流が悪い方に胚移植の直後、アスピリンとヘパリンという薬を投与することにより、子宮環境が改善し妊娠に至ることもあります。

当院の1回目の体外受精の妊娠率は約60 %ですが、残りの40 %の方にそれまでわからなかった不妊の原因が明らかになることもあります。体外受精は卵子側の問題や子宮環境の問題などを診断する検査としても有効です。ただ、体外受精は身体的、経済的な負担も大きくなりますから、ご夫婦で話し合って決めていただくことが一番大切です。

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