多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の治療中ですが、流産を経験したり、卵胞が育ちすぎてキャンセルが続いています。排卵誘発剤が合わないのでしょうか。また体外受精を検討すべきでしょうか。医療法人桂川レディースクリニックの桂川浩先生にお話を伺いました。
卵胞が多く育ってしまいます。
Q.多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)について教えてください
PCOSは、おもにホルモンの分泌異常によって排卵しにくくなる疾患です。すべての不妊症のなかで6~10%の頻度で見つかります。諸外国では肥満の方に多くみられますが、日本では標準体重、もしくは痩せている方に多いのが特徴です。そのため、日本と諸外国では診断基準が異なります。日本産婦人科学会のガイドライン(2007年)に沿って、次の3つの基準を満たすとPCOSと診断されます。
①月経異常(月経不順や無月経)
正常な月経周期は25~38日周期。2~3カ月に1回しか月経が来ない、または半年以上月経がない場合。
②多嚢胞性卵巣
超音波検査で卵巣に小さな卵胞(胞状卵胞)がたくさん連なって見え、2~9mmの卵胞が少なくとも10個ある場合。
③血中の男性ホルモン(テストステロン)の値が高い。
もしくは、黄体化ホルモン(LH)の値が高い場合。男性ホルモンが高いと、吹き出物や体毛が濃くなるなどの男性化兆候が出る場合も。
Q.どのような治療法がありますか?
PCOSにはホルモンの分泌異常のほかに、肥満や高インスリン血症などを伴うことがあります。それぞれの特徴に合わせた治療法が必要です。治療法には次のようなものがあります。
・排卵誘発剤を変える
PCOSの程度によってはクロミフェンやレトロゾールなどのお薬の服用で卵巣が反応し、55~70%の方は排卵します。一方で、卵巣が薬に反応しない、あるいは反応しすぎると、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)が起きやすく、さらには多胎妊娠のリスクを伴うこともあります。さまざまな排卵誘発法のなかでも、FSH製剤を使った「ゴナドトロピン療法」は、OHSSのリスクを回避し、単一卵胞を育てるのに有効です。なかでも低用量漸増療法は、時間はかかりますが、たとえば37.5IU/日の少量のFSH製剤の自己注射を連日投与し、1~2個の卵胞を慎重に育てるのに適した方法です。
・インスリン抵抗性指数(HOMA-R)を調べる
PCOSの方の約30%にインスリン抵抗性(HOMA-R)が認められます。血液検査で血糖値・インスリン値を調べて、値が高い場合は糖尿病薬のメトフォルミン(グリコラン®︎)を併用します。約2〜3カ月の服用で卵巣環境が改善し、排卵が起こりやすくなります。
・腹腔鏡下卵巣多孔術(LOD)
PCOSで排卵誘発の内服薬や注射をしても効果がない場合は外科的治療もあります。LODは腹腔鏡下で卵巣の表面にレーザーで穴を開けて、排卵を促す治療法です。術後75%程度の方に自然排卵が起こり、そのうち60%の方が自然妊娠されています。
・肥満傾向の方は減量する
PCOSのなかには、肥満傾向の方も多くみられます。BMI(体格指数)値が25を超える場合は「減量」が第一選択になります。たとえば、いまの体重を5~10%減らすだけでホルモン分泌などの卵巣環境が良くなり、月経不順などが改善されることがわかっています。
Q.最後にayaさんへのアドバイスをお願いします。
インスリン抵抗性(HOMA-R)の検査がまだでしたら、一度検査をおすすめします。日本人の標準値は1.6ですが、これを上回る場合(2.5以上)はインシュリン抵抗性が疑われ、メトフォルミンによる治療が必要になります。
また、ayaさんはPCOSのなかでもクロミフェンやレトロゾールなどの内服薬に卵巣が過剰に反応し、OHSSや多胎妊娠しやすい傾向があります。クロミフェンをレトロゾールに変えることで、OHSSはある程度抑えることができます。この治療はある意味間違いではありません。ただ、レトロゾールはお薬の特性上、単一卵胞を育てる作用は期待できません。自然妊娠を目指されるのでしたら、ゴナドトロピン療法をおすすめします。
この方法でうまくいかないときは、腹腔鏡下卵巣多孔術も一つの選択です。さらに、これらの治療を一通り試しても結果が出ない場合は、OHSSや多胎妊娠を回避する目的で、体外受精を検討されるのもいいでしょう。