納得のいく病院選びを

知識を最大の武器にして、 納得のいく病院選びを

宇津宮 隆史 先生 熊本大学医学部卒業。1988 年九州大学生体防御医 学研究所講師、1989 年大分県立病院がんセンター第 二婦人科部長を経て、1992 年セント・ルカ産婦人科開 院。国内でいち早く不妊治療に取り組んだパイオニアの 一人。開院以来、妊娠数は8,900件を超える。

ドクターアドバイス

データの矛盾や整合性に気づき、 理解する力を身につけましょう

データを正確に読み、 最善の病院を選びたい

日本産科婦人科学会(日産婦)が公開している “ 平均的な ” 妊娠率を知っていますか。年齢 ごとの妊娠率などを常識として把握しておき、 病院を選ぶ時にその施設が出しているデータと 照らし合わせてみることです。すると、たとえ ば一般的には何%なのに、かけ離れた数値が出て いれば「これはおかしいんじゃないか」と判断が つきます。

当院では開院当初から情報公開を重要視して います。それは患者さんが治療を選択するうえ で非常に大切なものだと考えているからです。 しかし、患者さんがホームページなどで簡単に 調べられるのがメリットである反面、データの見 方がわからずに本当の情報かどうかの判断がつ かないまま病院を選んでいることが多いのも事 実。日産婦と各施設の公式サイトのデータが違 うことも残念ながらあります。だからこそ、自 身が勉強すること、そして注意して見ることで、 気づけることがたくさんあるということを自覚 しましょう。

治療周期あたり4%が 胚移植あたりなら 30 %に!

その一つの目安として必ず確認していただきたい のが公開されているデータの分母と分子。妊娠率と 一言で言っても分母が異なれば比較できません。分 母は何か、分子は何か。それを提示しているかどう かが患者さんにとって一番重要な情報です。よく見 かけるのは、分母=胚移植あたりの妊娠率ですが、 胚移植ができる受精卵が得られれば、どの施設でも 平均して 30 %は妊娠できます。通常の調節刺激周期 法では、たいてい移植キャンセルはなく、移植周期 数は治療周期数と同じで分母が移植周期あたりで も治療周期あたりでも妊娠率は 30 %くらいですが、 採れる卵子の少ない自然周期法や低刺激周期法で は、胚移植あたりの妊娠率は 30 %くらいでも、分母 を治療周期あたりにすると妊娠率は4〜 7 %といわ れています。明らかに違いますよね。

通常、 10 〜 15 個の卵胞を育てることを目指して 排卵誘発します。たとえば卵胞が 10 個できると、 その中に卵子が入っている割合は8割で8個。受 精率は体外受精でも顕微授精でも7割なので受精 卵になれるのは8個中5個。そこから胚盤胞まで育つのは4割の1個か2個。 10 個採卵できれば1 個は戻せるという計算です。ドロップアウトせずに 胚盤胞まで育ったものを移植するのだから、胚移 植あたりの妊娠率が高いのは当然と理解できるで しょう。一つのクリニックの年間のデータとしては 同じものですが、分母が違えばこれだけの差が出 ることを、ほとんどの人は知りません。だからこ そ、「治療周期あたり」が重要であり、ご自身が通っ ている施設がそのデータを出していなければ問い 合わせ、明確な答えがなければ転院をおすすめし たいですね。

いよいよ始まる着床前診断 患者さん自身も勉強を

日本では、不妊治療を行っている施設が世界的に 見ても多く、東京都内だけでも100を超えてい ます。その中からどこを選ぶのかはとても難しく、 テレビコマーシャルで見かける、街中で広告が目に 入るなど、視覚的に訴えかけてくる施設を選ぶ人 も多いでしょう。ほかの病気なら、日常的におす すめの病院を教え合ったりできますが、こと不妊 治療に関しては生きた情報交換ができるチャンス は滅多にありません。だから自分で探すしかなく、 間違った選び方をしてしまいがちです。生殖医療専 門医でなくても治療ができるというのも問題です が、患者さんがそれを知る由もありません。それ に関しては我々生殖医療専門医、生殖医療専門施 設の責任でもありますから、改善されるよう強く 訴えていきたいと考えています。

今年、いよいよ着床前診断が行われるようにな り、日本の生殖医療も新たな転換期を迎えるでしょう。遺伝子レベルで詳細なデータがわかるように なるということは、施設側は今まで以上に正確な データを公開し、患者さん側もそのデータを読み 解く力が必要になります。不妊治療は専門的な言 葉も多く難しいと思っている人も多いでしょうが、 知識をもつことは治療を受けるうえでとても大切 なこと。初歩的なことから段階を追って、積極的 に勉強していただきたいですね。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

不妊治療に関するドクターの見解を取材してきました。本サイトの全ての記事は医師監修です。