受精卵 が育たず、 移植に進めません。 この先も治療を続けられる?
体外受精に進んでも「卵子が採れない」「受精卵が成長しない」など の悩みを抱えている方は多いようです。
その原因は年齢だけでなく、 妊娠前の健康管理が大きく影響している可能性も。
うめだファティリ ティークリニックの山下能毅先生にお話を伺いました。
ドクターアドバイス
これまでの治療データ
検査・ 治療歴
妊娠歴
サプリメント の使用
ジュン大好きさんは「SLEにともなう肺高血圧症の疑い」があるそうです。
山下先生 そのお話をする前に、この方は154㎝、 40 ㎏と痩せているのが気になります。妊娠にはBMIが大きくかかわっています。BMIとは「体重(㎏)÷身長(m)÷身長(m)」でわかる体格の指標です。標準的なBMIの値は「 22 」とされていますが、この方のBMIは「 16 」とかなり低いですね。体重に換算すると12 ㎏少ないことになります。BMIは卵巣年齢の目安になるAMH(抗ミュラー管ホルモン)とも深くかかわっていて、「卵巣予備能」を示すともいわれています。BMIは高すぎてもよくありませんが、19 未満の痩せすぎの方は無月経や無排卵のリスクが高まり、標準体重の女性に比べて妊娠しにくい傾向があります。
最近は、妊娠前の女性の健康管理によって妊娠結果を改善させる「プレコンセプションケア」が注目されています。この考え方には運動、食事、喫煙などいくつかのポイントがありますが、この方は栄養バランスのよい食事を心がけるなどして、適正体重にしっかり戻すことが重要です。
SLE(全身性エリテマトーデス)は、自己免疫性疾患である膠原病の一つです。SLEが不妊の原因ではないと思いますが、この病気が原因で体重が減少しているのであれば、専門医と相談して体重をコントロールする必要があります。また、SLEは不妊より流産の原因になりやすく、SLEのうち 40 %の方が抗リン脂質抗体症候群を合併して発症するといわれています。抗リン脂質抗体の検査をしたうえで、妊娠をめざしていかれるといいですね。
治療の諦め時について、先生はどう思われますか?
今後どのような治療が可能でしょうか?
山下先生 相談者さんのAMHの値がわかりませんが、AMHによっては排卵誘発の刺激法が合っていないことも考えられます。ほかの刺激法に変えてみるのも一つです。また、あまり胚盤胞にこだわらず、初期胚の移植を繰り返してみてもいいと思います。年齢が高くなると卵子が採れにくくなり、胚盤胞の到達率も低くなります。一般的に胚盤胞までの到達率は 40 %といわれています。つまり、 10個の受精卵のうち4個しか胚盤胞にならないことになります。相談者さんのように2個とも胚盤胞をめざすのはリスクが高いと思います。2個とも胚盤胞にならずに移植ができなくなると、妊娠の可能性はゼロになってしまうからです。
当院では1回目の移植でなかなか胚盤胞に到達するのが難しい方は、移植のキャンセルを防ぐために、初期胚と胚盤胞の移植をそれぞれ行います。たとえば5個採卵できた時は、受精卵の1個は初期胚で凍結して移植します。2個採卵できた時は1個を初期胚で凍結して、2個目は胚盤胞までいけば、それで凍結することをご提案します。
2カ月間のお休みを希望されています。休まずに治療を続けたほうがいいでしょうか?
山下先生 お休みされるのであれば、繰り返しになりますが、その間に食生活などを見直して、少しでも体重を増やしていかれるといいですね。また、DHEA、Lーカルニチン、ビタミンD、レスベラトロールなど、抗酸化・抗加齢作用が期待できるサプリメントも併せて摂取されてはいかがでしょうか。
近年、日本の赤ちゃんは、生まれた時の体重が平均 300g 少なくなっています。なかでも妊娠前に痩せている女性からは、2500g 未満の低出生体重の赤ちゃんが生まれる傾向があります。低出生体重の赤ちゃんは脳性麻痺による運動障害や知的障害などの合併症を引き起こす可能性が高いとされています。一番の目的は健康な赤ちゃんを授かることです。妊娠前から生活環境を見直して、妊娠しやすい体に整えていただきたいですね。