Q 採卵しても未成熟卵ばかり。 排卵誘発法が合っていない?
ドクターアドバイス
排卵誘発法はどのようにして選択され るのでしょうか?
山下先生 排卵誘発法は「調節卵巣刺激法(ロング法、ショート法、アンタゴニスト法)」と「低卵巣刺激法(クロミフェン+注射)」の大きく2つに分かれます。一般的に排卵誘発法の選択は、AMH(抗 ミュラー管ホルモン)の数値と年齢によって判断し、具体的には「正常(AMH2〜4ng/ml )」「高い(AMH4ng/ml 以上)」「低い(AMH2ng/ml 以下)」の中で検 討していきます。たとえば、AMHが高い人は卵子が育ちやすいため、調節卵巣刺激法で複数個の採卵をめざします。一方、AMHが低い人は卵子が育ちにくいため、クロミフェンを内服する低卵巣刺激法で卵胞発育をうながします。
papicoさんは採れた卵子すべて が未成熟卵だったそうです。
山下先生 ご相談者は多囊胞性卵巣症候群(PCOS)と診断されていますね。PCOSは一般女性の5%にみられ、多くの人は月経不順を訴えられます。一般的にこのような方では、卵巣刺激が強い注射剤の量を増やすほど卵子はたくさん育ちます が、未成熟卵が増えやすく、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)になりやすい傾向があります。排卵誘発剤のさじ加減がむずかしい病態ですので、おそらく担当の先生はOHSSを予防するために、低卵巣刺激法を選択されたのでしょう。
しかし、この方は 36 歳と若く、AMHは 5.8ng/ml と高めですので、卵子がたく さん採れる可能性は十分あります。当院 であれば、卵子の成熟度をさらに上げる ために、ゆるやかな刺激の HMG アン タゴニスト法をご提案しま。AMHの数値をみながら1日の注射量を微調整するなど、慎重にコントロールしてOHS Sを回避しつつ、成熟卵に育てていきます。近年、OHSSはカバサール ® という薬でも予防でき、体外受精での安全性は高くなっていますので、担当の先生とご相談されてはいかがでしょう。
今後の治療法についてアドバイスをお 願いします。
山下先生 そのほかに、インスリン抵抗 性、甲状腺ホルモン異常など、合併症を引き起こしやすいホルモンについても検査し、原因も調べておかれるといいと思います。それで異常が見つかれば、原因に応じた治療と並行しつつ、体外受精を続けていかれるといいでしょう。
また、未成熟卵から胚盤胞になっていますが、あくまでも形態的な判断なので、その胚盤胞が必ずしも着床するとはかぎりません。着床率の高い胚(受精卵)の条件は、初期胚から胚盤胞に至る速度や分割といった成長過程にあります。胚の成長を観察・記録して良好胚を優先的に選別する「タイムラプス」などで、総合的に判断されるといいですね。