PCOSですが主人の精子は良好。 体外受精でなく人工授精する意味は?
排 卵 障 害 のなかでもっとも 多 いとされるPCOS。
実 際 の 治 療 の 流 れや、 人工授精や体外受精を検討するタイミングについて、 醍醐渡辺クリニックの山口剛史先生にくわしく教えて頂きます。
ドクターアドバイス
主な不妊原因の一つだが 本質的な病因の解明は不特定
PCOSの程度により 飲み薬から体外受精まで 段階的に治療
妊娠を希望される人でBMI 25 以上の肥満に該当する場合、インスリン抵抗性を上昇させますので、減量によりインスリン抵抗性を改善するようにします。標準体重まで落とせなくても5%程度の減量で、排卵の再開やインスリン抵抗性の改善といった内分泌の状態を改善する傾向がみられ、臨床的に意味があるといわれます。そのうえでクロミフェンという飲み薬を用いたり、肥満や耐糖能異常がある場合は、血糖値を下げる目的でメトホルミンなどを併用して排卵を促すようにします。
また、BMI 25 未満で非肥満のPCOSの人、あるいは肥満の人で減量・運動でも排卵がない場合は、クロミフェン療法が第一選択になります。高プロラクチン血症を示す場合は、ドーパミンアゴニ スト(カバサールⓇなど)を併用。また、副腎性高アンドロゲン血症を示す場合 は、グルココルチコイド(プレドニンⓇなど)を併用することがあります。
PCOSの人は内因性のLH値が高く、それでも卵胞発育が不良であったり、排卵しない場合は、FSH(卵胞刺激ホルモン)の注射剤を少しずつ増やしながら卵胞を刺激したり、クロミフェンとFSHの併用療法を行います。
薬物療法で難しい場合は、卵巣表面に小孔を多数あける腹腔鏡下卵巣多孔術という外科的手術を行います。術後の自然排卵率は 74 %、妊娠率は 60 %といわれ、OHSS(卵巣過剰刺激症候群)と多胎妊娠のリスクが低いというメリットがあります。
それでも排卵しない場合は体外受精を検討します。PCOSの人はOHSSを起こしやすい傾向がありますので、胚移植は卵胞刺激周期で行わずに、卵巣が鎮静化してから実施することが多いです。
排卵誘発法を併用した 人工授精は妊娠率の上昇を 期待できるので試す意味はある
もしも頸管粘液中の運動精子の状態が不良であれば、抗精子抗体を調べてみてはどうでしょうか。ヒューナーテストで問題がなく抗精子抗体も陰性であれば、ご主人の精液検査の結果では濃度、運動率、量ともに問題ありませんから、必ずしも人工授精をしなくてもよいと思います。
AIHの実施については、原因不明不妊の場合でも排卵誘発を併用した人工授精は、人工授精を単独で行うよりも妊娠率が上がり、排卵誘発周期の自然性交に比べて妊娠率が上昇するといわれています。人工授精を試してみるのは、あながち間違っていないと思います。仮にヒューナーテストが不良で抗精子抗体が陽性であれば、3時間あけて人工授精を反復してみるのも一つの方法です。ご主人とは年齢差があるそうですが、精子も老化するといわれていますので、受精能力など精液所見だけで片付けられない原因もあるかもしれません。