体外受精で卵胞が育ちません。 次はどんな誘発方法が望ましい?
蔵本武志先生 久留米大学医学部卒業、山口大学大学院修了。山口県立中央病院 産婦人科副部長、済生会下関総合病院産婦人科部長を経て、1990 年オーストラリア・PIVEメディカルセンターへ留学。帰国後、1995年 蔵本ウイメンズクリニック開院。最近は好きな観劇や旅行する時間も取 れないほど多忙な日々を送っているそう。「今後、子宮内フローラやERA など新たな検査も試していきたい」と意気込みを語ってくださいました。
ドクターアドバイス
●PCOSの人は、血中LHや男性ホルモンが高値になりやすい。
●まずホルモンバランスを整えたうえで、排卵誘発を開始してみては。
トモさん(33歳)からの相談 Q.前夫との間に10歳の子どもが1人いますが、現在の夫 とは妊娠経験はありません。
AMH値が8.12ng/ml、 また
多嚢胞性卵巣症候群です。タイミング法、
人工授精 をそれぞれ7回行いましたが、いずれも陰性。今回転院し、 アンタゴニスト法で体外受精を試みました。生理3日目よ り4日間、フォリルモンP Ⓡを150単位。7日目より2日 間、フェリングⓇ150単位。9日目より3日間、フェリン グⓇ225単位とガニレストⓇ。12 日目、卵胞が1つしか 育っておらず、あとは10㎜程度が数個でした。点鼻薬を 行い、14日目に採卵しましたが変性卵でした。自己注射 ですが、あまりに育たずショックでした。このような場合、 次はどのような誘発方法で臨むのがいいでしょうか?
トモさんは多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)を抱えています。
蔵本先生 体外受精で複数の卵子を採取する ために排卵誘発剤の注射を打ったものの、発 育した卵胞は1つ、ほかは 10 ㎜程度が数個で、 採卵した卵子も変性卵だったのですね。PC OSでは卵胞数は多いですが、排卵誘発剤に 反応しにくい場合もあります。治療前に次の ことをチェックする必要があります。
まず、PCOSの方は血中LH値が高い 場合が多いので、月経初期の血中LH値を 調べましょう。月経開始2〜3日目のLH 値が 10mIU/ml 以上と高値の場合、卵胞が閉 鎖しやすく卵胞の発育不良が考えられるの で、低用量ピルを約 10 日間服用するか、カ ウフマン療法でLH値を正常化させます。 GnRHアンタゴニスト剤のガニレストⓇ やセトロタイドⓇを2〜3日皮下注射して 下げる方法もあります。
また、半数近くが2型糖尿病の予備軍であ るインスリン抵抗性をもつことがあります。 空腹時の血糖値とインスリン値を測定し、H OMAー R 値が 2.0 以上だと、排卵誘発剤の反 応が不良だったり卵子の質の低下が予想され ます。その場合、メトホルミン剤を1〜2カ 月服用すると卵胞発育は改善するでしょう。
さらにPCOSの特徴に、男性ホルモン高 値があります。数値が高いと、卵胞の発育不 良や卵子の質の低下につながるため、月経が 始まったら副腎皮質ホルモン剤であるプレ ドニゾロンⓇやデカドロンⓇを2週間服用し 副腎皮質由来の男性ホルモンの分泌を低下 させ、血中男性ホルモン値を改善させます。
以上のように、まずはホルモン環境を整 えたうえで排卵誘発をスタートすれば、卵 巣の反応も良くなり好結果が期待できると 思います。
PCOSの方の場合、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)への注意も必要ですよね。
蔵本先生 トモさんは、AMH値が 8 ・ 12ng/ml と高く、 20 個以上卵子が採れていま す。OHSSの重症化予防のため、今回FS H製剤(フォリルモン P )を150単位と少 量使用されたようですが、次は225単位か ら始めて、もっと多く発育させてもいいかも しれません。ただしOHSSの危険もあるた め、アンタゴニストを隔日投与し、受精卵は 全胚凍結して別の周期に戻すほうがいいで しょう。また、FSH製剤投与開始日からレ トロゾールを5日間服用して点鼻薬によるL Hサージを起こす日に血中 E 2値が高ければ 再度レトロゾールを服用。採卵日からレトロ ゾールを約1週間服用し、これに加えて、カ バサールⓇを 1 日 1 〜 2 錠、 1 週間服用する ことでOHSSの重症化予防になります。
「あまりに育たずショック」とありますが、ほかにアドバイスはありますか。
蔵本先生 BMIの値が 25 ・ 3 と、やや肥満 傾向にあるので、減量によっても卵巣の反応 が良くなるのではと思います。食事は 3 食バ ランス良く。そしてストレスをためないこ と。以前の結婚では妊娠経験があるのに今回 は何故できないのかなど、もしプレッシャー になっていることがあれば、カウンセラーに よる心のケアも行ってみてはどうでしょう。