ロング法とアンタゴニスト法、 初めての体外受精で選ぶ誘発法は?
「体外受精の方法」
ロング法は注射の量が増えて 過剰刺激になるリスクが
ロング法はGnRHアゴニストというお薬を使う方法です。日本では点鼻薬を使いますが、それにより体の内因性のLHサージが抑えられるので、卵子が発育するまで排卵することなくうまくコントロールすることができるんですね。ただし、点鼻薬で排卵を抑えると完全に自然の排卵をしない状態になってしまいます。人為的に下垂体機能不全のような状況を作ることになり、そのうえでFSHやHMGを使っていくということで、総体的に注射の量が増える傾向にあります。
また、この方法の場合、HCGを必ず打たないと成熟卵を得ることができません。HCGはそれなりにいいお薬なのですが、使うことによって卵巣が腫れてしまうOHSS(卵巣過剰刺激症候群)を起こすリスクがあり、この方法が使われ始めた1990年初頭くらいに大きな問題になりました。
ですので、ロング法は簡便でオートマチックではありますが、潜在的に過剰刺激のリスクがあるので、特に若い方、卵巣の予備能がいい方、あるいは多嚢胞性卵巣の方といった場合には注意して使う必要があります。
オーダーメイド的な治療が できるアンタゴニスト法
一方、アンタゴニスト法では排卵を抑える作用のあるお薬としてGnRHアンタゴニストを用います。これは月経周期の8日目やそれ以降、卵胞が 14 ㎜を超え たところから使っていくもの。後半に3、4回使うような形になるので、前半のお薬は毎日使う必要はなく、反応のいい方であれば2日に1回と減らしたり、クロミフェンやレトロゾールを併用するなど、その方に合ったオーダーメイド的な形をとることができます。
ですから、ある程度卵子が採れる可能性がある方、卵巣の予備能が良くて胞状卵胞も多い方であれば、OHSSなどのリスク回避ということを考えるとアンタゴニスト法のほうがいいのではないかと思います。
誘発法を決める際、主治医の先生から「アンタゴニスト法なら準備がいらない」といわれたようですね。ロング法の場合、生理が来る1週間くらい前から点鼻薬を使いますが、そのスタート時点で残留卵胞があったり、卵巣の腫れがあるとそれが点鼻薬の刺激で大きくなってしまうので、スタートラインで状態が落ち着いている必要があります。
そのため、先生によっては前の周期にピルやホルモン補充で排卵を一度抑えて、そのうえでロング法を始めるというケースがあるので、準備というのはそういう意味でおっしゃったのではないでしょうか。
ロング法のほうが強く刺激をするので、その分採れる卵子の数も多くなりますが、だからといって必ずいい卵子ができるということではないので、リスクを考えればまずはアンタゴニスト法でスタートするという形をとってもいいのではないかと思いますね。当院でも、年齢が 35 歳の方なら第一選択としてアンタゴ ニスト法をご提案しています。
さらに、アンタゴニスト法はリスク回避のほか、次の周期にスムーズに治療に取りかかれるというメリットもあります。
全胚凍結の治療で考えた場合、ロング法やショート法だと反応が強いので、遺残卵胞を起こす可能性があり、次の周期に卵巣が腫れていることが多いんですね。また、ずっと排卵を抑えているので、次の周期に生理不順というか、スタートしてもなかなかうまく排卵しないということが起こる可能性があります。
それに比べるとアンタゴニストは血中に留まる時間が短く、比較的早く体から抜けるので、次の周期に月経周期が不順にならないことが多く、レトロゾールやフェマーラⓇを使った場合はさらに周期の回復が速やかになるというふうにいわれています。
コツを要する誘発法なので 経験豊富な医師のもとで
では、アンタゴニスト法にデメリットはないのかということですが、アンタゴニスト法は後半に排卵を強く抑えてしまうことで、黄体機能が落ちることがあります。特に点鼻薬でLHサージを起こした場合、その後に着床を支える黄体ホルモンの分泌が低下することがあるんですね。ですから、十分に黄体補充をしなければいけないケースも出てきます。ただ最近は、採卵後に胚を移植せずに凍結するという考え方が多くなっているので、その範囲ではアンタゴニストを使うことにまったく問題はないと思います。
もう一つ、オートマチックでどんな先生でも均一的な治療ができるロング法やショート法と異なり、アンタゴニスト法はアンタゴニストを使うタイミングやホルモンの補充、薬の加減などに若干のコツを要します。
ただそれも症例を多く扱い、経験が豊富な施設や先生なら問題なく、その方の状態に合わせてうまく用いれば、結果を十分期待できる方法だと思います。