気温がぐっと下がり、そろそろ気になる風邪やインフルエンザの流行。
きちんと予防していますか?
冬に流行するのはこの2つだけでは ありません。
特に気をつけたい感染症と予防法、妊活中に薬を飲んで いいのかなど注意すべき点を、佐藤病院の佐藤雄一先生に伺いました。
冬に感染症が増えるのは、 空気の乾燥が原因
そもそも冬になぜ感染症が増えるのでしょうか。原因の一つは空気の乾燥です。加えて他の季節に比べて水分摂取も減るため、体内の水分量はさらに少なくなりがち。つまり乾燥によって喉や気管支の粘膜が弱くなり、ウイルスの侵入を防ぐはずの喉や鼻の粘液も傷み、感染しやすくなるというわけです。
また冬は体温が下がるため代謝機能が低下 し、免疫力が全体的にダウンするのも大きな原因です。一方、冬になると断然元気になるのがウイルス。低い気温と乾燥はウイルスにとっては非常に好環境で、感染力がよりいっそう強くなるのです。
感染経路としては飛沫感染、空気感染、接 触感染、経口感染があります。飛沫感染の代表格はくしゃみと咳。風邪をひいている人が室内でくしゃみをすると約100万個のウイルスが飛散し、咳で出るウイルスは約 10 万個と言われています。空気感染も実は怖くて、湿度 40 %以下の乾燥した部屋ではウイルスは30 分間漂い続けると言われています。また、接触感染で気をつけたいのは電車のつり革や不特定多数の人が使う道具や容器の使用。病原体が付着しているものを触り、手についた細菌やウイルスが口から入ると感染します。経口感染としては食べ物や水に注意が必要です。病原体の混入したものを食べたり汚染の可能性がある水を飲むと感染します。
ウイルス系の感染症に効く 薬はありません
冬に流行する感染症で特に気をつけていただきたいのは、ウイルスが病原体の風邪、インフルエンザ、ノロウイルス、ロタウイルス、RSウイルス、細菌が病原体のA群溶血性連鎖球菌咽頭炎(A群溶連菌)、そのどちらにもあてはまらない性質をもつ菌が原因となるマイコプラズマ肺炎の 7つです。各感染症の症状は左ページの表を参考にしてください。
皆さんに一つ覚えておいてほしいのは、風邪やその他のウイルス性の感染症には、基本的に治療薬がないということです。対処薬として解熱剤、咳止め、鼻水止めなどがありますが、これらはあくまで症状を緩和するための薬であって、治すための薬ではありません。鼻水や痰、咳、発熱などの症状は、実は感染症を治すうえで必要なことだからです。体に備わっている免疫機能が自動的に働くことでそうした症状が出るのであり、ウイルスを退治している証しなのです。対処薬を飲んで症状を抑えてしまうとかえって病気の回復を遅らせてしまう
ことがあります。以前は風邪で抗生剤を処方する病院も多かったのですが、最近は風邪に効く治療薬はないことが認知されたこともあり、処方しなくなっています。
いずれにしてもウイルス疾患にかかって しまったら暖かくして寝ることで体を休め、症状が治まるのを待つのが最善の方法です。
インフルエンザやA群溶血性連鎖球菌咽 頭炎とマイコプラズマ肺炎に関しては治療薬があります。早めに診断を受け、必要に応じて薬を処方してもらいましょう。
インフルエンザは要注意。 風疹は冬だけでなく 1 年中警戒
冬の感染症で一番、かからないように 気をつけたいのはインフルエンザです。妊活中に高熱を出すと、その月は排卵しないこともあり妊活の治療をストップさせることになってしまいます。
また、妊娠判定が出る時にインフルエンザ にかかっていると、それによって流産したり、着床しなかったりといったことの可能性もゼロではありません。ですから妊活中でもインフルエンザの予防接種を受けておきましょう。少なくとも高熱、肺炎などの重症化を防げます。
それと冬に限ったものではないのですが絶対にかかってほしくない感染症があります。風疹です。特に妊娠初期の女性が風疹にかかると胎児が風疹ウイルスに感染してしまい、難聴、心疾患、白内障、精神や体の発達の遅れ等の障害をもった赤ちゃんが生まれる可能性が高くなるからです。流行するのは春先から初夏にかけてですが、冬の間も気をつけましょう。
感染症にかからないよう 日常生活から気をつけよう
一番良いのは、感染症にかからないこと。そのためにも普段からの予防が大切です。外出先から帰宅した際には必ず手を洗い、うがいをしましょう。市販のマスクは病原体の防御にはなりませんが、喉を乾燥から守ることができます。感染防御のためにマスクをしたい場合は医療用マスクを使ってください。人混みを避けることも大事です。人が多いところほど、感染症にかかる可能性は高まります。スーパーなども人の少ない時間帯を選んで行くようにしましょう。また、感染症にかからないよう免疫力を高めるためにも正しい食生活と十分な睡眠が大切です。年末は何かと忙しく寝不足になりがち。そうすると体力が落ちやすくなってしまいます。
ノロウイルスによる食中毒にも気をつけてください。意外に冬に多いのです。生牡蠣などを食べる機会があるからでしょうか。冬でも万が一に備え、できるかぎり加熱したものを食べましょう。
積極的に摂取してほしいのはビタミンDです。免疫力をアップさせるだけではなく、不妊治療にも実は効果があり、着床率も卵子の質も良くすると言われています。魚介類やきのこ類をたくさん食べましょう。感染症にかからないための一番の薬、それはご自身の体に備わった免疫力です。だからこそ以上のようなことを心がけ、免疫力を落とさない生活を実践してください。
ウイルス:治療薬なし。インフルエンザとロタ(乳児)のみ予防ワクチンあり。
● 風邪
上気道炎を一般的に風邪と総称する。 【症状】 くしゃみ、鼻水、鼻づまりといった鼻の症 状からはじまり、喉の痛み、咳、声枯れ、 痰といった症状が出て発熱が起こります。 血液中にウイルスが入ると頭痛、関節痛 が、腸の粘膜にウイルスが付着すると腹 痛、下痢などの症状が出ます。特に喉の 痛み、咳がある場合は保湿が大事です。
● インフルエンザ
インフルエンザウイルスに感染することに よって起こる急性感染症。 【症状】 38℃以上の発熱、頭痛、関節痛、筋肉 痛など全身に症状が出るのが特徴。風邪 よりやや症状が重いです。ワクチンで感 染を完全に抑えることはできませんが、重 症化を防ぐことができます。事前に予防 接種を受けておくことをおすすめします。
● ノロウイルス
ノロウイルスによって発症する感染性胃 腸炎や食中毒のこと。特に冬季に流行。 【症状】 手や指、食品を介して口から感染し、腸管 でウイルスが増殖します。嘔吐、吐き気、 腹痛、下痢、発熱などの症状が出ます。 ただ、それらのどれかが1~2日続いた後、 治癒します。後遺症の心配もありません。
● ロタウイルス
ロタウイルスによって引き起こされる急性 の胃腸炎。 【症状】 主に子どもがかかりやすい病気ですが、 大人が感染する場合もたまにあります。 大人の場合、軽いむかつきか倦怠感程度。 とはいえ、子どもと接する仕事の人は多 少気をつけたほうがいいでしょう。
● RSウイルス
RSウイルス(respiratory syncytial virus)によって発症する呼吸器感染症。 【症状】 2歳までに発症することが多く、大人は 鼻風邪程度で済む場合がほとんど。た だ、まれに大人も気管支炎や肺炎を起こ すケースもあり、その場合は、38℃以 上の発熱が5日程度続いたりします。
細菌:治療薬あり(抗生剤)。予防ワクチンなし
● A群溶血性連鎖球菌咽頭炎
(A群溶連菌) A群溶血性連鎖菌によって引き起こされる感染症。 【症状】 突然の発熱、喉の痛みなどを発症します。喉が真っ赤になっ たり、喉の痛みが強くなり、嘔吐や吐き気をもよおすことも。 初期の段階では舌が白いコケに覆われ、数日後には苺舌と いって赤いぶつぶつができたりしますが、原因が菌なので、 抗生剤で治すことができます。
その他:治療薬あり(抗生剤の一種)。予防ワクチンなし。
● マイコプラズマ肺炎
肺炎マイコプラズマという細菌に感染することによって起こる 呼吸器感染症。 【症状】 発熱、全身倦怠感(だるさ)、頭痛、咳などの症状が出ます。咳 は熱が下がった後も3~4週間ほど続くのが特徴です。患者の咳 のしぶきを吸い込んだり、身近で接触したりすることで感染する ので、かかっている人のそばに近寄らないように気をつけましょう。