高齢 での 卵巣刺激と移植の時期 について教えてください
体外受精など高度な不妊治療を受けることができても、条件はどんどん厳しくなっ てくる40代。
どのような卵巣刺激法を選択して、いつ移植するのがベストなのか、 臼井医院不妊治療センターの臼井彰先生にお話を伺いました。
ドクターアドバイス
40代は仕事などで忙 しい時期ですが、でき れば不妊治療に集中し て、今のチャンスを逃 さないでほしいですね。
AMH値が卵巣刺激法 を決める目安に
当院の場合、年齢にかかわらず、 来院されたらルーティンの不妊検 査をなるべく早く済ませます。採 血によるホルモンチェックと子宮 卵管造影検査、ヒューナーテスト は1カ月程度で終わらせて、その 結果を受けて今後の治療方針を決 めていきます。
ヒューナーテストの結果が悪け れば人工授精へ。結果が良い場合 はタイミング療法を続けても、 40 代だと1年間続けて妊娠する人は 全体の 10 %以下程度なので、体外 受精にステップアップすることを ご提案することも。
当院では不妊治療を望む方全員 にAMH(抗ミュラー管ホルモン) 検査も実施していますが、体外受精の場合、AMHの値が卵巣刺激 法を選択する際の目安になります。
3 ng/ ml くらいあれば排卵誘発 剤の効きもある程度いいと思いま すが、 40 代になると1 ng / ml 台の 人が多く、低い人だと1 ng / ml を 切ることも。そうなると薬の反応 も悪くなりますから、卵巣刺激法 を工夫していくことが必要になっ てくるでしょう。
同じ刺激法でも薬の 種類や量を微妙に調整
卵巣刺激については、当院では初 回は年齢が若い方でも低刺激法を選 択しています。前述したように特に40 代はAMH値が低い方が多くなっ てくるので、飲み薬のクロミッドⓇ のみ、もしくはクロミッドⓇにHM GかFSHの注射をプラスしたマイルドな刺激法になるかと思います。
低刺激で結果が出なかったら、当 院では次の選択としてアンタゴニス ト法をご提案しています。同じアン タゴニスト法でも、その方の状態に よって注射薬の種類や量を調整。
FSHの値が高いと薬の効きが悪 くなる人が多いので、D2、D3の ホルモン値を見て、注射薬をHMG にするかリコンビナントのFSHに するかを決めたり、なかなか反応せ ず、採れる卵子の数が少ない人は薬 の量を150単位から300単位に 増やすなどの工夫をしています。
AMH値が 0.1ng/ ml 以下になると かなり反応が悪くなってくるので、 薬を使わずに自然に近い形、もし くは薬を使ってもクロミッドⓇや フェマーラⓇなどの飲み薬だけで刺 激をするように。
自然に近い形では当然採れる卵子 の数は減ってしまいますが、1、2 個でもいい卵子が採れれば妊娠の可 能性はあると思いますね。
卵子の数や質の改善に サプリという方法も
年齢が高くなると「卵子がなか なか採れない」と悩む方も多くい らっしゃいますが、卵子の数を増 やすにはDHEAなどのサプリメ ントを試してみるのもひとつの方 法かもしれません。また、フラグ メントが多いなど、受精卵の質を 改善するにはメラトニンなど。サ プリメントは当院でもおすすめし ていますが、うまく体質に合えば 改善する方もいらっしゃいます。
ほかにご自身でできることとし ては栄養バランスの良い食生活、 適度な運動に加え、ストレスの軽 減も重要。治療だけにのめり込ま ず、趣味を楽しむなど、気分転換 も必要だと思います。
卵子の数は 10 個程度採れれば理 想的ですが、年齢が高く、低刺激 しかできない場合は、そんなに多くは期待できません。少ない数を うまく生かして、妊娠に結びつけ ていきたいですね。
そのためにはできるだけ胚盤胞 での移植を目指していきたいです。 4細胞期胚でも8細胞でも良いも のがあれば一応キープして、胚盤 胞まで培養し、何とかその周期で 移植ができるようにしています。
高齢で妊娠・出産された方はやは り、受精卵が胚盤胞までうまく育つ 例が多いですね。当院で治療した 45 歳の患者さんの場合も、アンタゴニ スト法で3個採卵したうちの胚盤胞 を移植して妊娠されました。
子宮内膜の状態で胚の 戻し方を決めていく
移植のタイミングについては、 当院では移植のスケジュール調 整がしやすいホルモン補充周期 で戻す方が多いですね。もちろん「自然周期で」という場合も あります。基本的に、どのよう に戻すかは年齢ではなく、その 方の子宮内膜の状態を見て決め ていくことになります。
子宮内膜が厚くならない、排卵 が早くて内膜がそれに追いついて いかないという場合はホルモン補 充をしてから戻しますし、年齢が 高くても内膜に問題がなく、生理 が安定している方は自然周期で戻すことも。また、「ホルモン補充周 期でも内膜が厚くならなかったら、 次は自然周期で」など、毎回同じ ではなく、その方の内膜や排卵の 状況を見て変えていっています。
高齢になると条件は悪くなって いきますが、すべての 40 代の方が 同じ方法ではなく、お一人お一人、 その方に合った卵巣刺激法や移植 の時期を見極め、選択していくこ とが大事だと思っています。