未成熟卵が多く受精しないのは 多嚢胞性卵巣症候群だから?

永井 泰 先生 東京医科大学医学部卒業。産婦人科・麻酔科認定医。1989年、 埼玉県三郷市に開院。さらに環境を整え、より良い医療を提供する ために、2015年に診療所から病院へ改組。産科、婦人科をはじめ、 不妊治療、形成・美容外科、小児科と、女性が生涯関わる総合的 な医療を、温かく、優しい環境の中で提供。2月に誕生日を迎えた永 井先生。最近、ガールフレンドとの間にベビーが生まれたミック・ジャ ガーより1歳年下。そのバイタリティに負けず劣らず、先生もお元気で、 取材の後は卓球の練習に向かわれました。

ドクターアドバイス

●採卵のタイミングを1日程度遅らせても良かったのでは
●数は少なくても、もう少し低い刺激で確実に成熟卵を採っていく
夏恋さん(29歳)からの相談 Q.多嚢胞性卵巣症候群です(AMHの値は4ng/ml)。28 歳の時に自然妊娠しましたが、初期流産という結果に。 その後1年間タイミングをとり続けても妊娠しませんでし た。卵管はきれいに通っており、主人の精子も元気いっ ぱい。思い切って体外受精に進み、ロング法で採卵した ところ12個の卵子が採れましたが、そのうち6個は未 成熟卵。残りは成熟卵でしたが、医師から「未成熟卵が 多すぎて良くない!」といわれました。主人の精子はすご く良く、「振りかけで十分」とのことでしたが、結果は受 精ゼロ。精子が良くても受精障害ということはあり得ます か? それとも卵子側に問題があるのか、もしくは多嚢胞 性卵巣が関係しているのでしょうか。

受精しなかった原因はどんなことが考え られますか。

永井先生 年齢がまだお若いし、精子の状 態も良好なようですから、1回の体外受精 で受精障害だと決めてしまうことはないと 思いますね。
卵子はたくさん採れたけれど未成熟卵が 多かったということは、全体的に卵子が小 さかったのではないでしょうか。
成熟卵に 関しても、成熟する一歩手前の状態だった のでは。
もしかしたら採卵するタイミング がずれていて、もう1日程度採卵を遅らせ れば結果は変わっていたかもしれません。
LHFSHなど、この時のホルモンのデー タがないのではっきりとはいえませんが、 まだ未成熟の卵子も、成熟するまで引き延 ばしていけば良かったのかなと思います。
卵巣刺激法はロング法を選択されていま すが、この方法だとだいたい一定に「この 日が採卵」というのが決まってしまうんで すね。
ほかの刺激法、たとえばアンタゴニ スト法だとほぼ毎日ホルモンをチェックし て進めていくので、タイミングがピタッと 合う。また、アンタゴニスト法でなくても、 クロミッドⓇだけで抑えていって、LHサー ジをつくってあげればうまく調節できると 思います。

体外受精をするなら、卵巣刺激法を変え たほうがいいということですね。

永井先生 当院だったら、アンタゴニスト 法、もしくはクロミッドⓇにゴナドトロピン を少し加えた方法で刺激することを提案す ると思います。
これらの方法はロング法と 比べると採れる卵子の数は少なくなります が、この方は年齢が若く、卵子の質も悪く ないはず。流産されましたが過去に受精の 経験があるし、卵管因子もない。
2、3個の 採卵でも妊娠する可能性は十分あるのではないでしょうか。
生理3日目の卵胞の大きさと数を見て、 かなり多い場合は低い刺激に。
FSHの注 射を 50 ~ 75 単位から始めて、数が揃うよう になったら量をぐっと上げて、3~4個の 卵子をつくるようにしていきます。
そうす れば、いいものが採れると思いますね。

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は妊娠 の大きな障害になるのでしょうか。

永井先生 以前妊娠されて、卵子も採れて います。
AMH(抗ミュラー管ホルモン) の値も4 ng / ml とそれほど高くないので、 PCOSでもそれほど重症ではないのでは。
排卵誘発をうまく工夫していけば、タイミ ング法でも妊娠は可能かもしれません。
また、高アンドロゲン血症などが背景に あるPCOSだったら、メトホルミンなど のお薬を3カ月ほど服用すると排卵誘発も いい状態で行えて、しっかり卵子がつくれ るようになります。
悲観されることはありませんが、PCO Sは年齢を重ねると急に卵子が採れなくな ることがありますから、なるべく早めに治 療を進めていったほうがいいでしょう。
>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

不妊治療に関するドクターの見解を取材してきました。本サイトの全ての記事は医師監修です。