着床率を上げる

着床率を上げるために できることって何?

良 好 胚 を 移 植 し て も 妊 娠 し な い 、子 宮 ・卵 管 因 子 な ど の 原 因も見当たらないのに着床しない— 。

そ ん な 時 は ど う す ればいいの? 浅田レディースクリニックの浅田義正先生 にお聞きしました。

 

浅田 義正 先生 名古屋大学医学部卒業。1993年、米国初の体外受精専門施設に留 学し、主に顕微授精を研究。帰国後、日本初の精巣精子を用いた顕 微授精による妊娠例を報告。2004年、浅田レディースクリニック 開院。2006年、生殖医療専門医認定。2010年、浅田レディース名 古屋駅前クリニック開院。2016年11月に前立腺がんの手術をし た先生「。生涯に2回のがんの手術をするとは思いませんでしたが、 術後経過順調で、より長生きしてこれからも多くの人の妊娠の手 助けをしていきます!」とお元気で安心しました。

ドクターアドバイス

・“良好胚を移植したから妊娠できる”は 間違った考え方

・黄体ホルモンの開始時期が、凍結融解胚移植のポイント

・着床には、子宮内膜の低酸素環境が重要

良好胚を移植しても妊娠しない。 それは今や当たり前のこと !?

まず大前提として、良好な胚を移植すれ ば妊娠して当たり前というのは間違いで す。

日本ではまだ臨床応用が認められてい ませんが、欧米ではPGS(着床前スクリー ニング)を行うと、良好な胚の中にも染色 体異常がたくさんあるというのがわかって きています。

当院でもそうですが、受精卵を培養する 際にはタイムラプスで観察しながら、いい 受精卵を選んでいくわけですが、たとえば 4倍体の胚などは、染色体のバランスがい いのか、普通の受精卵よりもきれいに完璧 に発育します。

比べたらそちらを選ぶのが 当たり前の受精卵に、実は染色体の数が倍 あったということもありますし、受精した 時には2前核の正常受精に見えても、妊娠 時には4倍体だったという胚もあります。

要は、見た目だけでは本当に良好な胚を選 びきれないということです。

重要なのは黄体ホルモン。 その数値で移植時期を合わせる

そのようななかで、着床の条件をよくし て、着床率を上げるにはどうしたらいいか といえば、一つには、移植の時期をきちん と合わせることが重要です。

体外受精で卵巣を刺激して、比較的卵子 が採れたのになかなか妊娠しないという症 例は昔からあったわけですが、ここで何が 一番悪さをしているのかというと黄体ホル モンです。

黄体ホルモンが出始めてから、子宮の内 膜は着床の準備をしていくのですが、自然 周期では排卵に合わせて上がってくる黄体 ホルモンが、卵巣刺激を行うと採卵前から 上がってきてしまいます。

つまり、内膜が早めに着床の準備を始めてしまうわけで す。

さらに、昔は今よりも培養の技術が悪 かったため、体外で培養すると受精卵の発 育は少し遅めになり、新鮮胚移植では内膜 が早めで受精卵が遅めで、インプランテー ションウィンドウのずれが大きくなって妊 娠率が下がるということが明らかでした。

今は凍結保存が主体になって、凍結障害 がほとんどなくなっていますから、採卵し た日に黄体ホルモンがある程度上がってい たら、まずは受精卵を凍結しておいて、内膜の状態を合わせて融解胚移植を行うのが ベストです。

たとえば、6、7日目の胚盤 胞を凍結しておいて、5日目の内膜に移植 すると遜色なく妊娠することもわかってい ます。

ですから、着床の時期を考えるとい うのも治療の一つです。

当院では、2012年から全胚凍結を行 い、受精卵のために一番いい時期に移植す ることを徹底しています。

子宮内膜の厚みが必要なのは 子宮内を低酸素環境にするため

また、着床の条件をよくするためには、 子宮内膜の環境を整えることも大切です。

よく内膜の厚みがある程度必要だといわれ ますが、それはなぜかというと、卵が育つ ためには低酸素環境が重要だからです。

卵というのは基本的に、子宮外でも育ち ますし、そこで胎盤もつくっていきます。

つまり、子宮内膜がなくても卵というのは 本来、育つ能力があります。

そう考えると 内膜自体、それほど重要ではないと思われ ますが、我々の丸裸の細胞というのは、酸 素5%、二酸化炭素6%、窒素という環境 が一番育ちやすく、体外培養もそのような 低酸素環境で行っています。

卵管などを含め、体の中の多くは低酸素環境なのですが、子宮というのは血管の塊 のような臓器で本来、高酸素環境です。そ のため、着床の際には内膜がある程度厚く なることで血管から距離をとり、着床部位 を低酸素環境にする必要があるのです。

ただし、子宮内膜というのはホルモン値 をよくして待っていれば、大抵は厚くなる ものですが、なかには本当になかなか厚くならないケースもあります。

その対策としては、当院では 10 年前から ペントキシフィリンⓇという薬を輸入して 服用してもらい、そのうえで抗酸化剤、ビ タミンCやEを飲んでもらっています。

こ れは、放射線治療で子宮内膜がほとんどな い人に、ペントキシフィリンⓇを投与して 妊娠したという論文に由来するものです が、実際、内膜が5㎜くらいしかない人で も双子を妊娠したという症例もあります。

また最近では、内膜が薄い人は、その時 期だけでも抗酸化剤を大量に飲んで体全 体を低酸素にして、体のいたるところで 酸素毒を打ち消して細胞の成長をサポー トしようということで、抗酸化ネットワー クと呼ぶ複数の抗酸化物質を組み合わせ たオリジナルサプリも開発し、服用をすす めています。

着床だけがダメで 妊娠できないという人はいない

最後に、私の中では、着床だけがダメ で常に妊娠できないという人はほとんど いないと思っています。

それは、子宮外妊娠という、かなり条 件が違うところでも妊娠は起きるからで す。

さらに、反復流産や習慣流産の理論 というのは、通常、自分以外の皮膚や内 臓を移植したら拒絶反応があって当然な のに、ご主人でも自分でもない、その中 間的な存在の受精卵が、子宮の中で育つ のはおかしいというのがスタートライン でした。

そこには拒絶免疫をブロックす るブロッキングファクターがあるという こともいわれていたのですが、その免疫 学的なメカニズムというのはすでに否定 されています。

なぜなら代理出産でも同 じ成績が出るからです。

ですから、免疫 的になにかをすればよくなるかというこ とはあり得ません。

培養液や排卵誘発を変えるというのは、 いい成熟卵を採るという意味ではきちん とすべきことですし、二段階胚移植やシート法などの移植法も、多少いいという意 見もありますが、医学的エビデンスはあ りません。

今のところ、移植の方法を変 えて着床率が上がると言い切れるものは ないと思います。

要は、着床が多くの妊娠の要因になっ ていると考えること自体、PGSも発達 してきた今、考え直すべきことだと思い ます。

そういった意味で、子宮内膜の変化に 合わせていく凍結融解胚移植と、低酸素 環境を保つために内膜の厚みを確保する、 その2つの条件は確実なものだと思って います。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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