大変だったから優しくしてあげる

 

田村秀子先生の 心の 玉手箱Vol.30

妻の初めての治療を前に 自分に何かできることは?

夫に望むことは何??

今回は妻の治療に寄り添う 男性の立場からの質問に、 秀子先生がお答えします。

 
田村 秀子 先生 京都府立医科大学卒業。同大学院修了後、京都第 一赤十字病院に勤務。1991 年、自ら不妊治療をし て双子を出産したのを機に、義父の経営する田村産 婦人科医院に勤め、1995 年に不妊部門の現クリニッ クを開設。診察や医師会の活動などで多忙ななか、 娘さんとの旅行を楽しみにしている先生。ちなみに先 生は海外旅行の時、空港でチェックインや出国審査を 終えた後の時間が一番ワクワクするそうです。

 

こけしの夫さん(運送業• 35歳)  Q.妻が初めて体外受精を行います。自分は今まで仕 事を優先してきたせいでほとんど何も協力できな かったので、恥ずかしながら何をしてあげればい いのか、まだよくわかりません。妻に聞くのが一 番なのでしょうが……。妻は毎日5時過ぎに起き てお弁当を作ってくれます。ストレスはよくない と聞いたので中止したほうがよいですか? それ と一番やってほしい家事は何ですか? その他、 かけてほしい言葉や、逆に言ってほしくないこと など、とにかく何でもよいので、体外受精期間中、 妻が夫に望むことを教えてください!

こけしの夫さんの投稿に 寄せられたコメントです!

ことりさん(兼業主婦・37 歳) 私は弱音を吐いたり愚痴をこぼした時に「大変だよね」と、 いたわってくれたり、共感してくれるのが一番嬉しかった です。採卵・胚移植の時もできる範囲で仕事の調整をして 送り迎えをしてくれました。食事は時間があれば主人が作っ てくれることも。逆に嫌だったのは、イライラしている時 に理論的に意見されたこと。解決策が欲しいのではなく、 優しく話を聞いてもらいたかっただけなので。でも、こけ しの夫さんくらい奥様のことを考えてらっしゃればほとん どのことは大丈夫ですよ!
ゆきさん(主婦・35 歳) 私も奥さんと同じく子宮内膜症で手術経験あり。先月、初 めての体外受精をしました。体外受精中に一番つらかった のは薬の副作用で、体がとにかくだるいことでした。人に よっては更年期障害の症状が出ることがあるのです。もし 奥様がつらそうにしていたら、お皿洗いなど家事を手伝っ てあげるといいのではないでしょうか。あと、その時々で いろいろな選択を迫られたり、結果待ちの時に不安になっ たり、そんな時に寄り添って話を聞いてあげたりすると精 神面での支えになるかと思います。

してほしいことは 人それぞれ まず話を聞いてみて

ご自分で「妻に聞くのが一番なのでしょうが……」と、おっしゃっていますが、はい、そうです(笑)。
初めての体外受精というのは、ものすごく不安ですから、ご主人も一緒に話を聞きに行ってあげると喜ばれると思います。
ただ「別に来なくていい」と言われたら、行かなくてもいいのです。
ご主人に一緒にいてほしいという方もいらっしゃれば、隣で話を聞かれるのは嫌という方もいらっしゃいますし、治療が終わったら迎えにだけ来てほしいという方もおられます。
体外受精をしなければならない理由も人によってさまざまだから、まず奥様が何を望んでいるのか知ることが大切だと思います。
「主人がわざわざ休みを取って、ついてきてくれたんです」と、嬉しそうに話してくださる方は多いですよ。
「ついて行こうか? いつがいい?」と細かく聞いて、したいようにやってあげるということを、態度で示してあげればいいと思います。

アドバイスは無用 不安を受け止めて あげましょう

ご主人は体外受精に限らず、普段からぜひとも奥様の気分的な“波”のようなものを感じ取ってあげるようにしてください。
排卵後のPMS(月経前症候群)の時期は、いわばちょっとした嵐みたいなものですから、些細なことが気に障ったりして特にイライラ、カリカリする時期です。
そんな時は刺激せず、優しく話を聞いてあげながら、嵐が過ぎ去るのをひたすら待つこと。
決して何か解決策を提示しようとしたり、いいアドバイスをしようなどとは考えてはいけません。
何だかよくわからないなぁと思っても、「ふーん、そうなんだ」「へ〜、そうかぁ」と聞いてあげましょう。 
初めての体外受精の場合、おそらく奥様はイライラするというよりも、最初は大きな不安から緊張されていることが多いと思います。
だからいろんな場面で言いたいことや聞きたいことを我慢したりして、それがストレスになり、とんでもないところで爆発することも。
そんな時、たとえ「どうしてそんなことで怒っている?」と思っても、それをグッと飲み込んで、じっくり受け止めてあげてください。

気を使いすぎると 今度はかえって プレッシャーになる

とはいえ「ずっと寝ていたらいいよ」なんて過保護はかえって逆効果。
奥様はそれだけ結果を期待されているんだなと感じてプレッシャーになります。
「大事な時やから」は絶対に禁句。それは妊娠してから言う言葉で、特に妊娠の可能性がある時、体外受精の胚移植の後は絶対に言ってはいけません。
夫に手伝ってほしい家事といっ ても、仕事や生活スタイルによってさまざまだと思います。
もし奥様が洗い物を始めたら、「今日は僕がやるよ!」とニッコリ笑顔で。「いつまで続くかわからない」なんて嫌みを言われても気にしない。
「今だけかもしれないけど、とりあえず今日はやってあげる」でいいんです。
ご飯を作るのが大変そうなら、代わりに作ってあげられなくても、外食や店屋物にしようと提案してあげたりね。 
できることってそんなにないかもしれないし、たとえ今だけだって、女性はその気持ちがありがたいわけです。
だからご主人は奥様の様子をよく観察して、「今日は大変だったね」と、しんどそうなところは率先してやってあげる。
それでいいんじゃないでしょうか?

秀子の格言

「体外受精だから……ではなく、 大変だったから優しくしてあげる。
そんな気持ちが大切なんです」
>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

不妊治療に関するドクターの見解を取材してきました。本サイトの全ての記事は医師監修です。