ご夫婦で納得できるカタチを

田村秀子先生の 心の 玉手箱 Vol.28

最後の助成金に希望をたくし 体外受精に挑戦したいけれど お金や生まれる子どものことなど 不安や葛藤で踏みきれず…。

この気持ちにどう向き合うのか 秀子先生にお話を伺いました。

のんさん(主婦• 46歳) Q.今年3月で高額医療の助成金が最後になります。経 済的に助成金がなければできないので、これが最後 と覚悟しています。後悔したくないので最後の体外 受精をしようとしましたが、奇跡的に妊娠したとし て、無事に産めるだろうか、自分の体がおかしくな らないだろうか、障害のある子が生まれたらどうし ようなど、不安になってしまいました。以前ほど子 どもが欲しいという気持ちもなくなっています。で もこのチャンスを逃したら二度と体外受精はできな いと思うと、後悔したくありません。この気持ちを どう整理したらいいでしょうか

のんさんの投稿に 寄せられたコメントです!

みのりさん(主婦・35 歳) 自分の体がおかしくならないだろうか? と思う時点でしな いほうがいいのかもしれません。私は何かあっても自分の命 はいいから子供に生きてて欲しいですね。障害の子が…とい うのも35歳からリスクは高くなるのに今更気にするなら余計 にやめたほうがいいかもしれませんね。体力も使いますし、 46歳とかなりの高齢だと子供もかなり若い時に親が先に亡く なってしまうかもしれませんのでその先の心配も絶えません。
かなさん(会社員・46 歳) 私は40歳過ぎてから不妊治療を始めて化学流産数回に、 43歳の時の18週での流産を経て昨年の2月、45歳で第 一子を出産しました。正直、そろそろ子供を諦めることを 考えなければいかないかもと覚悟を決め始めていた頃で、 妊娠がわかった時は、嬉しい反面冷静な自分もいましたが 妊娠して日が経つにつれ、だんだん実感がわいてきて出産 した今、本当に産んでよかったと思っています。

経済的な理由は言いわけ。 妊娠後の子育てを イメージできますか

40代以降の人が不妊治療で赤ちゃんを授かる確率は2%程度。2%というと 50 人に1人の確率です。
平均寿命まで生きられるかどうかを心配して生命保険はかけるのに、妊娠は 50 分の1の確率で「私にチャンスがあるかもしれない」と、どうしてそんなに楽観的に考えられるのでしょうか。
助成金があるなしにかかわらず、体外受精(顕微授精)の費用は高くて1回 50 万円ぐらい。
50 万円を払うか払わないかの問題以前に、子どもができたらいくら費用がかかるのか考えたことはありますか。
貯金が底をつくほど頑張って、「自分たちはできることはやった」と夫婦で納得する。
こういう場合の理由としては十分に成り立ちますし、どこかでやめるきっかけは必要です。
ただ、のんさんについては、経済的な理由を落としどころにするのは言いわけのように感じます。
経済的な理由で納得できるのであれば、ARTの世界はのぞかないほうがいいと思います。その覚悟が必要です。

自分の本当の気持ちに 見て見ぬフリをすると いつか爆発してしまいます

男性はものごとを理性で考えるので、得られるかわからないものに大枚をはたけません。
自分たちの老後のために貯金を置いておこうと考えます。
すると奥さんは、「私はやれるだけのことをやってみたい」と思っていても、自分の気持ちにフタをしてしまいます。こういう方は結構いらっしゃいます。
でも、生理が終わってしまった時に「あの時、ああしておけばよかった」「こうしたかったのにできなかった」と、どこかで悔いが残ってしまうことも。
自分の気持ちを吐き出さず、長い間心の中に溜めていると、いつか発酵して爆発してしまいます。
そうしないためには、経済的な理由に惑わされないで「自分はここまでやったから納得できる」と思えるよう、ご夫婦で話し合いをされるべきでしょう。
ただそれには、治療の期限をつけるなど、それぞれご家庭の事情はあると思います。

治療に残された 時間はわずか。 けれど、この先もずっと 夫婦の生活は続いていきます

不妊治療を経て高齢出産した方は、出産後ブルーになる方が非常に多いんです。
「こんなはずじゃなかった」と。はじめのうちは、子育てはしんどいもの。
男性は、頭で自分の子どもだとわかっていても、子どもがただ泣いているうちは、正直かわいいと感じられません。
さらに、高齢の両親に十分なサポートをお願いすることもできない。
仕事をしていればなおさら大変で、思い描いていた育児とかけはなれていきます。
妊娠はゴールではなく、ゴールなしのエンドレスです。子どもが 20 歳を過ぎても子育てが終わるわけではありません。
「無事に生まれなかったらどうしよう」「経済的にきびしいからやめよう」。
どれも自分を納得させる理屈としてはありです。だけど、どれも理由にはなりません。
やろうと思えば、母体血を利用した出生前遺伝学的検査(NIPT)や、不妊治療保険、治療費を分割払いできるクレジット払いなど、方法と手段はいくらでもあるからです。
いずれにもしても 50 歳を過ぎれば必然的に治療はできなくなります。
残された時間はあとわずか。でもこの先、 30 年、 35 年…と、ご主人との生活は続きます。
ご夫婦で生きていくのであれば、「何をどうすれば、自分たちは納得できるのか」。
二人が納得できるカタチを見つけることだと思います。

秀子の格言

「経済的な理由などに惑わされず この先、悔いが残らないよう ご夫婦で納得できるカタチを見つけて」
田村 秀子 先生 京都府立医科大学卒業。同大学院修了後、京都 第一赤十字病院に勤務。1991年、自ら不妊治療 をして双子を出産したのを機に、義父の経営する田 村産婦人科医院に勤め、1995年に不妊部門の現 クリニックを開設。御池通沿いにある先生のクリニッ クでは、京の夏の風物詩「祇園祭」の山鉾巡行の 見物が恒例。7月17日が診療日であれば、院内の 窓を全開し、患者さんにも開放。猛暑のなか、涼し い院内で優雅に見物を楽しめると好評です。
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全記事、不妊治療専門医による医師監修

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