子づくりとセックスは別にして

田村秀子先生の 心の 玉手箱Vol.16

セックスレスでも赤ちゃんを 授かることができるでしょうか?

不安な気持ちで治療にあたる 夫婦の複雑な胸の内や 心の持ち方について、 田村先生に伺いました。

 

ライチさん(主婦・31歳)  Q.私たちはセックスレスのため、 昨年より不妊治療をしていますが、 「赤ちゃんをいつか授かる」という実感が 持てません。子づくりを意識すると セックスがよりぎくしゃくし、 私が濡れず夫を受け入れることができなかったり、 夫も腟内で射精することができなくなりました。 挿入以外のお互いのスキンシップは大丈夫で、 仲はとてもよいです。基本的な検査や通水検査、 シリンジ法や人工授精を始めておりますが まだ妊娠には至っていません。 子づくりを忘れようと、 自然にセックスしてみようとしても どうしても夫婦どちらかが意識してしまいます。 セックスレスから赤ちゃんを授かった方は おられますか? どのような心の持ち方をすればいいでしょうか。

ライチさんの投稿に 寄せられたコメントです!

はさみん(会社員・36 歳) 「普通は」とか「夫婦のコミュニケーションだから」と思うの をやめました。私たち夫婦にとってセックスはそんなに重 要ではないんだと思っています。子どもが欲しいと意識し だしてからセックスがうまくできなくなり、検査で夫の精 子が少ないことがわかり、高度医療に頼っています。夫も子 づくりのためにセックスをしないといけない、という重圧 から解放されたようで、治療に対して前向きですよ。
コリー(主婦・42 歳) 完全レスで38歳から人工授精を始めた者です。お気持ちよ くわかります。私も妊娠は自然の摂理に沿ったものという感 覚があって、理屈通り機械的に人工授精をしても、何だか授 かる気がしませんでした。それに前後にタイミングを取った りしたほうが確率は上がりそうですものね。でも昨年2人目 を出産して2児の母になれました。完全レスなので2人とも 人工授精です。年齢的にも状況的にも、ライチさんは私より ずっと可能性はあると思いますので頑張ってほしいです。

それだけが 子どもをつくるための 媒介だと思わない

私がよく患者さんに対して申し上げているのは、セックスできる・できないということと、不妊とは別に考えましょう、ということです。
セックス=子どもをつくるため、と思っていると、「今回こそ頑張らないと」という気持ちが強くなってしまいますね。
そして、うまくいかなかった場合はお互いに「いいよ、また今度頑張れば」と言ってしまう。
これは、子どもの頃、テストの成績が悪かった時などに、「今度は頑張ってね」と言われたのと同じで、お互いにプレッシャーを感じるでしょう。
一般的にセックスの回数が多い人ほど、妊娠を意識しながら臨んではいないことが多いものです。
一度、子どもをつくるということ と、セックスができる・できないということを別にして考えてみてはどうでしょうか。
子宮の中に精子を入れる手段として、セックスだけが媒介だと思わなくてもいいのです。
子どもをつくるということに関しては、人工授精などの方法がある訳ですから、それが腟内射精である必要はありません。
まず「セックスをしなければ子どもができない」と思うのをやめてみませんか。

セックスは 男女の愛情表現の一つ50: 50 で行うもの

最近、当院でもセックスレスで相談にいらっしゃるご夫婦は増えていますね。
皆さん夫婦仲はよいので、手をつないで待合室にいる方たちも多いですよ。
「草食系」カップルなんて言われていますが、意識すればするほどギクシャクしてしまうということはよくあるみたいですね。
決してライチさんたちだけではないと思います。
「自然にエッチしてみようとしても、どうしても夫婦どちらかが意識してしまいます」ともありますね。
頑張って次の排卵日にうまくいくために「ここでトライアルしておかなきゃ!」と思っちゃうのかもしれません。
ここで、射精のメカニズムについて少しお話しすると、男性の腟内射精は経験に左右される問題が多いということ。
射精までの時間を我慢して、自分をどこまで律することができるかです。
また、男性は目や耳など五感をフルに使って性欲を高めていくわけですが、セックスで挿入した後に、「こういう快感や快楽、オーガズムが待っている」と実感できなければ勃起を維持することが難しい。
男性主導のように感じますが、セックスにおける男女の役割は50: 50 です。
デリケートな男性をどうやってその気にさせるか、女性がお膳立てをすることも考えてあげましょう。
そのために旅行や下着などで、場所や気分を変えてみるとか、そういうことも必要です。

人工授精だけで 妊娠してもいい

「心の持ち方」という意味においては、セックスレスであることが子づくりの妨げになると必要以上に思わないことが大事です。
人工授精を行えば、注入器が確実に精子を子宮腔内に入れてくれる訳ですから。
そういうことはドクターや便利な器機に任せてしまえばいいのです。そう思えば気持ちも軽くなるでしょう。
男性にこだわりさえなければ、1回もセックスをすることなく、人工授精だけで妊娠される方もたくさんいらっしゃいます。
一方、平日は忙しくてそういう気分になれないというご夫婦から、お互いにゆっくりした時間が持てる休日に排卵日をずらしてほしいというようなご要望をいただくこともあります。
ともあれ、子どもをつくることとセックスは、一度切り離して考えてみましょう。
セックスはあくまでも男女の愛情表現における一つの形。
せっかく巡り合えた仲よしのご夫婦なのですから。

秀子の格言

それだけに とらわれることはないと思います。 子づくりとセックスは 別にして考えてみましょう。
田村秀子先生 京都府立医科大学卒業。同大学院修了後、京都第一 赤十字病院に勤務。1991年、自ら不妊治療をして双 子を出産したのを機に、義父の経営する田村産婦人科 医院に勤め、1995年に不妊部門の現クリニックを開 設。繊細な感性を秘めた、おおらかな人柄が魅力の先生 は、A型・みずがめ座。女性医師という立場のせいか、治 療の流れで患者さんからセックスに関する悩みを打ち明 けられる機会も多いという先生。時にユーモアを交えなが ら、明るくあっけらかんとした、目からウロコが落ちるような アドバイスが頼もしいです。
>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

不妊治療に関するドクターの見解を取材してきました。本サイトの全ての記事は医師監修です。