体内のホルモンを利用して排卵誘発する自然周期法
何となく体に優しい印象のある自然周期での体外受精。
実際に自然周期による治療ってどんなもの?
なかむらレディースクリニックの中村嘉宏先生に詳しくお話を聞きました。
ドクターアドバイス
・体内にある自然なホルモンを利用
・自然周期法のメリットとデメリットを理解
・自分の体に合った排卵誘発法を選択
自然周期法はまったく 薬を使わない治療?
高度生殖医療において重要なファクターの一 つは、いかに良好な卵子を育てるかということ です。
もちろん体に負担があってもいけません。
その条件を満たす排卵誘発法が、自然周期法と 呼ばれるものです。
そもそも自然周期法とはど のような治療法なのでしょうか。
何を指して“自 然”と呼んでいるのか、患者さんには少しわか りにくいかもしれません。
いわゆる自然周期法とは、体内で分泌され る「自然な」ホルモンの働きを利用して、卵 子を成熟させる排卵誘発法です。
自然周期法 では経口薬を用いて、もともと体内にあるFSHを分泌させて卵胞成熟を促し、直接卵巣 を刺激する注射の使用は最小限にとどめます。
卵子の最終成熟も H CGの注射を用いずに、 鼻からのスプレーによってこれももともと体 内にあるLHというホルモンを利用し卵子の 最終成熟を促すという方法をとります。
その 点も“自然”と呼ばれている所以なのでしょう。
自然周期といっても、まったく薬を使用しな いわけではなく、薬の力を借りながら、でき るだけ体内のホルモンを利用して卵子の成長 を促す排卵誘発法です。
薬を使わない完全自然周期や 自然周期での凍結融解胚移植も
自然周期法は、別に低刺激法と呼ばれる場 合があります。
具体的な治療の流れとしては、月経3日目 からクロミッドⓇの内服を開始してもらい、月 経 8 日目から 1 日おきに1回か2回の H MG やFSHの注射を行います。
G nRHの点鼻 薬をスプレーして最終的な卵子成熟のトリ ガーとします。
スプレー後 34 時間くらいで採 卵を行います。
卵胞数が極端に多い場合や、 卵の質が低下する場合には、クロミッドⓇの代 わりにアロマターゼ阻害剤という薬を用いる 場合があります。
自然周期で結果が出ない場合や、どうしても 薬が合わないという方には、薬をまったく使わず自然に卵子を成熟させ、採卵の時間調整のた めに点鼻薬を一回だけ用いる完全自然周期の採 卵も行っています。
また、ホルモン補充療法による凍結融解胚移植では、どうしても大量のホルモン剤が必要と なりますが、当院では自然の排卵を利用し、ホ ルモン剤の使用を極限まで減らした自然周期に よる凍結融解胚移植も行っています。
自然周期法のメリットと デメリットについて知る
自然周期のメリットは、薬の量が少なく、 身体的な負担が少なく体に優しい治療である ことです。
卵巣刺激による副作用はほとんど 起こりません。
また、薬剤費は高額なので、 治療費が抑えられて費用対効果が高いことも 利点の一つです。
腹水がたまる卵巣過剰刺激症候群(OHSS)になったり、注射での排卵誘発がつらか た方は自然周期が合っていると思います。
デ メリットとしては、採卵数がやや少なくなることです。
でも卵巣が腫れないため、妊娠が 成立しなくても、次の周期からまたすぐに次 の治療をスタートすることができます。
刺激 周期ですと、卵巣が腫れるので、2〜3周期 お休みしなければなりません。
続けて治療で きるというのはメリットですね。
完全自然周期は、自然が選んでくれた良好 な卵子のみを採取できるメリットがあります。
デメリットとしては、ホルモン剤を一切使用 しないため、採卵する前に排卵してしまうリ スクが少し高くなります。
また、月経周期が 不規則だとどうしても排卵をモニタリングす るための来院回数が増えてしまいます。
完全自然周期による凍結融解胚移植は、ホ ルモン剤を極限まで減らすことができる画期 的な方法ですが、やはり月経周期がある程度 規則的な方に向いている治療法だといえるで しょう。
体や目的に合った採卵法で 排卵誘発を行うことが大切
当院の体外受精を受けられている患者さんの 平均年齢は 38 〜 39 歳です。
連日の注射が必要な刺激周期の排卵誘発を行っても、採卵数が自然 周期とほとんど変わらないというケースも多い です。
その場合、自然周期のほうが費用対効果 が高いので、自然周期法をおすすめしています。
逆に卵巣が薬に反応しすぎて腫れてしまう多嚢 胞性卵巣の方にも自然周期法はおすすめです。 副作用はまず起こりません。
自然周期を望まれていても、反対に刺激周期 をおすすめする場合もあります。
たとえばある 程度高齢で、お子さんを 2 人以上希望される方 や、ご主人が重度の男性不妊で、MDーTESEなどで採取した精子の数が限られているよう な場合です。
このような場合、少しでも受精卵 の数を多く確保しておきたいので、刺激周期で の採卵をおすすめする場合もあります。
人間の体は一人一人違いますので、自然周 期の有利な点、不利な点を確認して、後は相 談しながら排卵誘発法を決めていくのがいい と思います。
同じ排卵誘発法を続けても結果 が出ない時は、漫然と同じ治療を続けても意 味がないので、異なる治療を試してみるとい うのもいいと思います。
患者さんには刺激周 期、自然周期、両者のよいところを理解して、 ご自身の体や目的に合った治療を選択してい ただきたいと思います。