妊娠維持に大切な黄体ホルモンの補充に

生殖補助医療において、黄体ホルモンの補充は欠かせません。

しかし、その補充方法にはさまざまな課題があります。注射、内服、腟坐薬のうち、子宮にダイレクトに届けられる腟坐薬が最も効果が高いといわれていますが、使い勝手などで不評でした。

国内初の腟坐薬の良いところは、女性目線にたった使用性の向上で、患者さん側のメリットが大きい点です。

 

詠田 由美 先生 福岡大学医学部卒。福岡大学医学部産婦人科 白川光一教授、九州厚生年金病院飯野宏部長 のもとで産婦人科学習得、熊本有宏講師のも とで生殖内分泌学を、フロリダ大学産婦人科 にて内視鏡手術を学ぶ。1989年より福岡大 学医学部で体外受精研究を始め、1995年よ り福岡大学病院不妊治療グループチーフ(医 学部講師)となる。1999年4月開業。女性 ドクターとして、女性をとりまく社会的環境 など、あらゆる点に配慮しながら不妊症患者 と向き合っている。

生殖補助医療で黄体ホルモンを 補充する理由について 教えてください

黄体ホルモン(プロゲステロン)は、子宮内膜を柔らかくして着床しやすくするなど、妊娠環境を整えるために大切な働きを担います。

卵管采にキャッチされた卵子は、卵管内で精子と出会い受精します。

そして細胞分裂を繰り返しながら子宮へと進み、子宮内膜に着床します。

排卵後に子宮内膜やその周辺の血流量を上げることで体温を上げ、受精や着床がしやすくなる環境をつくり、基底部から内膜がはがれ落ちないように維持させる作用があります。

生殖補助医療においては、特に採卵後から妊娠判定までの期間に黄体ホルモンの補充が必要とされます。

そのため、この時期にある程度の量を投与するのが主流になっています。

ただしそれによる弊害もあります。肌トラブルや、便秘などの不快症状が引き起こされ、重篤な場合、精神面にも影響することがあります。

これを解決するのが、卵胞ホルモン(エストロゲン)です。

黄体ホルモンと、卵胞ホルモンの 2 種のホルモンは女性特有のもので、総称して「女性ホルモン」といわれたりしますが、担う役割は異なります。

卵胞ホルモンは、卵巣内の卵胞を成熟させ、子宮内膜を厚くして、妊娠に備えます。

卵胞期から排卵までの子宮内膜の厚みは数ミリほどですが、受精卵が着床するためには 1 センチ程度の厚みが必要です。

また、黄体ホルモンとは逆で、自律神経を整えたり、肌にツヤやハリを生み出したりと、美容にも嬉しい作用があります。

2 種のホルモンは必ず必要なものです が、最も大切なのはそのバランスです。

排卵誘発剤を使用するような生殖補助医療においては、卵胞ホルモンの分泌が過剰になる場合が多くみられます。

このような場合には、卵胞ホルモンに見合うだけの黄体ホルモンを補充することが大切になりますし、そもそも黄体ホルモンが正常に分泌されなければ「黄体機能不全」を引き起こし、子宮内膜が着床に適した環境にはなりません。

この場合、高温期が短いなどの特徴があります。

そうなると、妊娠すること、妊娠を継続すること自体が困難になります。

どのような方法で 補充するのでしょうか?

黄体ホルモン剤の補充方法には、注射薬、内服薬、腟坐薬などがあります。

排卵誘発剤を用いる場合、GnRHアゴニストを使用するロング法とショート法、GnRHアンタゴニスト法などさまざまな方法がありますが、いずれの場合も、黄体ホルモンを補充するタイミングとしては、新鮮胚移植周期、凍結胚移植周期ともに高温期が適しています。

黄体ホルモンの投与による基礎体温の 変化を気にする方も多いのですが、基本的には高温期となるものの、薬剤の種類によっては、体温に影響しないものもあります。

体温中枢の感受性については、個人差が大きく、体温の上昇がない場合もありますので、特に気にしなくてもよいといえます。

黄体ホルモンの補充には、以前は、注射が使われることが多かったのですが、薬剤が脂溶性で強い痛みを伴うため、自分で注射することができず、来院の必要がありました。

それも 2 週間ほど連日投与することが必要で、患部が腫れたり痒みがでたり、肉体的、精神的な負担は大きかったといえます。

ただ、注射薬は、確実に血液中の濃度を安定させることができるため、これがメリットとして、長い期間、注射が主流になっていたという背景があります。

内服薬について、天然成分でなく合成型でつくられていることが一般的です。

ただ、それにより、副作用等、体の中で求める作用とは違う働きに転じる可能性があり、届けたいところに確実に届けられないとの理由で、用いられることは少ないようです。

一方、患者さんへの負担が少ないという点では、患者さん側から希望される場合もあり、使い勝手の面ではメリットがあるといえます。

腟坐薬については、これまで各医療機関で独自に作られて使われることが主流でした。ただ、やはり脂溶性ですから、薬剤が腟外に漏れ出て炎症をおこし、外陰部が糜爛したり痒みや痛みを伴うことも少なくありませんでした。

また、薬剤を自分の指で腟の奥に挿入しなければならず、それに抵抗がある方も多く、きちんと入ったのかもわかりにくいという声が多数ありました。

そもそも粘膜自体、ものを吸収するところではないので、腟の外に漏れ出すことも体の自然な作用といえますが、治療の観点からはデメリットといえます。

国内初の腟坐薬の良いところは、まず発泡タイプということです。溶けやすく吸収されやすいことで体への違和感が大きく減少します。

最近承認された腟座薬は これまでの補充方法に比べて どんなメリットがあるでしょうか?

専用器具(アプリケーター)が付いたことによる使い勝手は抜群で、患者さん側の使用性のハードルがかなり下がりました。

また、アプリケーターを使うことで、薬剤を届けたいところに確実に適量を届けられるという点は魅力です。

ここは内服薬とも大きく違うところで、子宮に天然型の黄体ホルモンをダイレクトに届けることは、体の中のたくさんの臓器を経由する内服薬よりも数十倍の効果があるともいわれています。

通院の必要もなく、痛みや腫れなどの負担もほとんどありません。

精神面も含め、何よりも患者さん側のメリットが大きい点で評価が高く、発売から 1 年で、当院でのスタンダードになりつつあります。

黄体ホルモンの補充方法にはそれぞれメリット、デメリットがあるといわれていましたが、現時点では、アプリケーターが付いた天然型の腟坐薬の総合点が一番高いと評価しています。

また女性目線にたった「使用性の向上」はどの項目よりも評価される点だと思っています。

これからの主流になってくるのは間違いないと思っています。

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不妊治療に関するドクターの見解を取材してきました。