人工授精へのステップアップ

本当に排卵しているか わからないのに 人工授精をしてもいいの?

向田 哲規 先生  1985 年高知医科大学 2 期生として卒業し1985 年に同大学産婦 人科医局、不妊治療・体外受精の研究・臨床の研鑽を積むため、 1987 年アメリカ・マイアミ大学生化学教室での基礎研究と体外受精 プログラムでの臨床経験を積みました。1990年から5年間、NY・ NJ 州のダイヤモンド不妊センターで更なる研鑽を続け、それらの経験を 生かすため1996年よりART治療専門である広島HARTクリニック に勤務し、現在院長として臨床を行っています。広島 HARTでは近 年話題の卵巣予備能力の指標となり得るAMH 値を、ベックマン社製・ アクセス2という迅速にホルモン値を測定する機器でE2 値やProg値 と同様にリアルタイムで測っています。その値も0.01までの検出感度 で得ることが出来ており、今後の治療の方針決定等に役立てています。
いちごさん(29歳)からの相談 Q.10代後半の頃、高プロラクチン血症となり、しばらくピルで対応していましたが、 結婚を機にピルをやめ、1年くらいになります。不妊専門病院に行き、2、3カ月 はタイミングを試そうとしましたが、エコーで卵胞が見られず排卵があるのかない のかわからない状態になってしまいました。しかし、基礎体温は高温期が8~10 日続き、その後生理が来ます。病院でLH検査をしますが、いつも排卵時期を過 ぎているのか時期ではないのか、反応が薄いです。病院に通い始めて半年、3回 実施したフーナーテストの結果が悪いことから、人工授精を勧められています。排 卵痛が感じられないので、排卵がないのではと考え、またエコーも見づらいことか ら本当にこのまま人工授精をしてもよいのか? 次周期に卵管造影検査を行ってタ イミング療法はとらず、このまま人工授精をしてもよいか? ご意見教えてください。

排卵痛と排卵はイコールではない

人工授精へのステップアップについて、いちごさんは不安を持っていらっしゃいます。これまでの治療内容をふまえて、ご意見をお聞かせください。
向田先生 いちごさんは「排卵痛が感じられないから、排卵がないのでは」と思われていますが、基本的には排卵痛と排卵は無関係です。
実際には排卵する時に排卵痛がない人のほうが多く、排卵がいつ起きたか自覚所見で判断することは簡単ではありません。
そして、排卵検査薬もあまり反応がなく、LH検査もされているようですが、これらの検査は概ね尿中で行われています。
実は尿中の値はあまりあてになりません。
排卵検査薬は簡便であり、排卵する前に出るホルモンのLHを調べているので、不確定な部分も多いです。
ですから、排卵痛と排卵はイコールではないので、その点の心配いりません。
「エコーで見えにくい」という点ですが、一 般的に経膣超音波検査では、正中部分に子宮が、その両サイドに卵巣が容易に確認できるため、何らかの癒着があると推測されます。
また「排卵しているかよくわからないのに、 人工授精をしてもよいのか」との疑問ですが、排卵をきちんと確認してから人工授精を行うべきだと思います。
その際には、いちごさんは「基礎体温で…」と書かれていますが、基礎体温は現在の不妊治療においてはあくまでも手助けです。
エストロゲン、プロゲステロン、LHなどの血中濃度のホルモン値がリアルタイムで調べることができるようになった現在の不妊治療において、基礎体温や尿中でのLHの値だけで判断するのは時代遅れと言わざるをえません。
人工授精へのステップアップですが、適切 な排卵のタイミングで人工授精をしないと意味がありません。
基礎体温ではなく、きちんと超音波検査で卵胞を確認し、かつホルモン値等が問題ないかどうか確認してから人工授精をするべきでしょう。
適切な不妊症治療のプログラムにおいては、しっかり排卵を確認してから人工授精を行うのが一般的です。
また排卵する前の段階から卵胞サイズを測定し、血液検査も合わせて行い、適切な排卵誘発も併用しながら人工授精を行うことで確率を高めることも可能です。

詳細な検査から

いちごさんへ今後の治療へのアドバイスをいただけますか。
向田先生 もし次周期に卵管造影検査を行うのであれば、タイミング療法を卵管造影検査に合わせて施行し、確実に卵管が通っているのを確認して人工授精をされたらいいのではないでしょうか。
やはり排卵が起きているかどうかは、適切 な超音波検査と血中濃度のホルモン値でみるのが一番いいと思います。
人工授精の際も確実に排卵を確認したうえで受けるようにされたほうがいいでしょう。
また、癒着が疑われるのであれば、腹腔鏡で卵巣、卵管、子宮の状態を詳細に確認してから自分たちの望まれる不妊治療を行っていただければと思います。
>全記事、不妊治療専門医による医師監修

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