おしえて塩谷 先生!!
生殖補助医療に欠かせない黄体ホルモン補充。
黄体ホルモンを補充する目的や方法は?
英ウィメンズクリニックの塩谷先生に伺いました。
「妊娠に重要な役割を担う天然型黄体ホルモンの腟座薬が登場し、黄体ホルモン補充が便利になりました」
妊娠環境を整える 黄体ホルモン補充
黄体ホルモン(プロゲステロン)は卵巣 から分泌され、妊娠との関わりが深い女性 ホルモンの一つです。
子宮内膜を整えて受 精卵の着床や妊娠維持に重要な役割を担っ ています。
生殖補助医療では黄体ホルモン を使った治療がおもに二つあります。
その一つが排卵誘発後に行う黄体ホル モン補充です。
排卵誘発は一度に複数の 卵胞の発育を促し、複数の卵子を採取し て妊娠率を上げることが目的です。
排卵 誘発剤を使用すると卵巣から卵胞ホルモ ン(エストロゲン)の分泌が活発になり、 血液中の卵胞ホルモン濃度が通常より高 くなります。
すると体は卵胞ホルモンが 十分にあると判断し、脳に活動を休止す るよう命令を出します。
その結果、黄体 ホルモンの分泌が減少し、黄体機能不全 を起こしやすくなります。
これを予防す るために黄体ホルモン補充を行います。
補充は採卵後、胚を移植してから妊娠判 定までです。
妊娠判定後は毎週1回血液 検査を行い、投与が必要な場合は最長8週間まで補います。
もう一つは受精卵を移植する時に行う 黄体ホルモン補充です。
最近は凍結した 受精卵を融解して移植する凍結融解胚移 植が主流になってきました。
凍結受精卵 を移植するためには、排卵させない状態 で卵胞ホルモンと黄体ホルモンを順次投 与して、子宮内膜を人工的につくる必要 があります。
基本的に当院では月経の2 日目から卵胞ホルモン(貼り薬)、 15 日 目から黄体ホルモン(腟座薬)を投与し て子宮内膜をつくります。
この期間をホ ルモン補充周期といい、黄体ホルモン投 与を始めて5日目に受精卵(胚盤胞)の 移植を行います。
黄体ホルモン剤の 種類と補充方法
黄体ホルモンの補充方法には内服薬、 筋肉注射、腟座薬の3通りがあります。
また黄体ホルモン剤は合成型と天然型に わかれます。
さらに合成型には1日3回 投与する内服薬と、週1回投与する筋肉 注射があります。
一方、天然型には1日3〜4回の投与を必要とする筋肉注射と 腟座薬があります。
合成型と天然型は作 用が微妙に異なり、それぞれメリットと デメリットがあります。
当院では 14 年前から自家製または輸入 による天然型の腟座薬を主体に使用して います。
天然型の黄体ホルモンは内服薬 にすると肝臓で代謝され効果が減少しま す。
そのため、それ以前は天然型の黄体 ホルモン補充には筋肉注射が良いとさ れ、当院でも筋肉注射を使用していまし た。
しかし、天然型の黄体ホルモンは油 性の粘液であることから、筋肉注射をす る時に非常に強い痛みを感じたり、注射 部位に腫れを伴うことがあります。
その うえ作用時間が3〜4時間と短いため、 1日3〜4回の投与が必要になります。
このような患者さまの身体的、精神的苦 痛をやわらげたいと思い、腟座薬に切り 替えました。
さらに当院の長年の臨床 データをみると、天然型の腟座薬を投与 した患者さまの妊娠率が高いことも採用 の大きな理由です。
妊娠中に使用するも のですから、より自然に近い成分にこだ わりたいと考えています。
ただ、天然型 の腟座薬を投与しても作用には個人差が あります。
なかには血液中の黄体ホルモ ン値が当院の基準( 9 ng / ml )を下回る 患者さまもいらっしゃいます。
このよう な場合は妊娠率が低下し、流産率が上昇 すると判断して、天然型の腟座薬に合成 型の黄体ホルモン剤を追加することもあ ります。
ちなみに合成型と天然型にかかわらず、 一般的な黄体ホルモン剤は基礎体温を上昇 させる作用があります。
基礎体温を計測し ても高温相ができるので患者さまも安心さ れます。
例外として、合成型のジドロゲス テロン(デュファストンⓇ錠)は体温を上昇させる作用が弱いため、高温相になりに くい特徴があります。
この薬剤を使用され ていて、高温相にならなくても薬剤の効果 はあります。心配されることはありません。
より使いやすくなった 腟座薬に注目!
最近は国内でも腟座薬が発売されていま す。
当院の自家製のような従来の腟座薬は 油性ですから、腟内で溶けた後、腟外に漏 れ出して患者さまが不快な思いをされるこ とがありました。
また薬剤は自分で腟の奥 に挿入しなければなりませんが、自分の指 で奥まで入れるのが怖く難しいといった声 もありました。
それにくらべて国内初の腟 座薬は微発泡タイプです。
腟内で速やかに 溶け、腟内に漏れ出しにくいよう工夫され ています。
また専用器具(アプリケータ) を使って座薬を腟の奥まで簡単に自己挿入 することができます。
これは当院の女性ド クターにも使いやすいと好評です。
黄体ホルモンは着床や妊娠の維持をする うえできわめて重要なホルモンです。
天然 型の腟座薬は、天然型であり注射剤ではな いというのが大きなメリットです。
腟座薬 は腸や肝臓、心臓、血管を経由して作用す る内服薬にくらべると数十倍の効果がある といわれています。
腟から子宮までの距離 が近いので、最も効果を上げたい子宮にダ イレクトに届けることができます。
その結 果、子宮内膜に黄体ホルモンが非常に高い 濃度で届き、高い効果が期待できます。
海外ではすでに天然型の黄体ホルモン剤 が主流になっています。
これから日本にも 天然型の黄体ホルモン腟座薬の時代が来る かもしれません。