「刺激?自然? 排卵誘発はどの方法がいいですか」
高刺激で注射を多く打ってもほとんど卵が採れません。
自然周期でもいいのでは?
俵 史子 先生 浜松医科大学医学部卒業。総合病院勤務医 時代より不妊治療に携わり、2004年愛知県 の竹内病院トヨタ不妊センター所長に就任。 2007年、 出身地の静岡に俵 IVFクリニック を開業。 来年の2月中旬、静岡駅近くにクリ ニックを移転。地便が良くなることはもちろ ん、待合いのスペースもぐんと広くなって快 適に。培養室の設備や非常時対策もグレー ドアップ。内装にもこだわるということで今 から完成が楽しみです!
ドクターアドバイス
●AMH値が変わらなければ刺激周期で採卵を
●授乳期間なども考慮して次の治療計画を立てる
●子宮筋腫の治療もしておくと妊娠後も安心です
あかしおさん 34 歳 Q.現在、第1子を妊娠中で、年齢的なこともあり、今から2人目の 治療について考えています。3回の体外受精(1回目 ※ ショート法、 2回目 ※ ロング法、3回目ショート法)では、HMG注射を9~14 回打ちました。それだけ打っても、 ※ AMH値が低いために卵がで きないのと、5cmほどの子宮筋腫が邪魔をして針が刺せないと のことで、2個しか採卵できていません。AMH値が低く、いくら 注射を打っても卵ができないのなら、低刺激、自然周期で採卵し ても結果は変わらないのではないかと考えています。先生はどう 思われますか? ご意見をお聞かせください。
治療データ
【検査・治療歴】
治療歴4年。
AMHは33歳の時に0.62ng/mL。
人工授精 8回、体外受精3回目で現在妊娠中。
1度目はショート法で 採卵4個 、胚盤胞まで成長せず3日目の新鮮胚移植は陰性。 他、3個は成長が止まる
。2回目はロング法で採卵2個 5日 目の桑実胚を移植するも陰性。
3回目はショート法で、採卵 2個 、胚盤胞移植で陽性。
残り1個は受精せず。
【精子データ】
検査をしたが、数値不明。
今の病院では特に何も言われてい ない
低AMHで反応が薄く…
あかしおさんは体外受精で3回採卵されて、数は トータルで2個しか採れなかったそうですが、3回 目で妊娠。 33 歳の時に検査したAMHの値が0・ 62 だったということです。
俵先生 33 歳というご年齢を考えたら、0・ 62 という のは平均よりかなり低い数値ですね。
AMHの値が1 を切ってしまうと、刺激しても採れる卵の数は少なく、 5個以内になってしまうケースが多いようです。
卵巣 の状況を考えたら、一般的には弱い刺激をしていくと いうことになるのではないでしょうか。
刺激周期で採卵する場合、卵巣へも負担がかかって いくことを考えて、当院では3回程度というのを1つ の目安にしています。
やはり、お薬の使用量もだんだ ん増えていってしまうし、卵巣の反応も悪くなってし まう。
卵巣機能の良い方だと少し休めば卵巣の力が復 活するのですが、そうではない方だと注射の量が増え てしまうケースが多いですね。
最初は7本で卵胞が育ったけれど、次は8本、 10 本 になって……というふうに。
この方の場合、注射は最 初が9本で、次が 10 本、その次が 14 本だとすると、結 構長くかかってしまっているのかなという印象を受け ますね。
注射の方向性が合わなくなってきているのか もしれません。
AMHに合わせた不妊治療を
現在、妊娠中ということですが、出産後、2人目の 妊娠を考えた場合、次回はどのような形で採卵するの がベストなのでしょうか。
俵先生 1年経つと、さらにAMH値、つまり卵巣の 予備能力が低下してしまうことも考えられますが、個 人差があるので、実際にどのような状態になっている かはその時に計測してみなければわかりません。
もしAMHの値が今とほとんど変わらず、前の治療 から期間が空いているという条件を考えれば、1回目 の採卵は刺激周期を採用してもいいかもしれません。
当院の場合なら、ロング法だとそれだけ使う注射の量 や数が増えて、ホルモン分泌を抑制しすぎてしまうの で、ショート法かアンタゴニスト法をご提案すると思 います。
前回、この方はショート法で良い結果が得ら れたので、もう一度その方法に戻る可能性が高いです ね。
採れる卵の数は多くないと思いますが、年齢的には 35 歳とまだお若いですから、卵巣の状態がしっかり していれば3回程度は刺激周期にトライできるのでは ないかと思います。
もし、AMHが今の半分くらいの数値になってい て、限りなくゼロに近いということであれば、クロ ミッドⓇなどの飲み薬+注射という低刺激法に。
自然 周期も選択肢の1つになると思いますが、周期で採 れる卵の数は1個です。
卵巣の余力が少しでも残っ ているのなら、反応が良い間にある程度の刺激をし て、なるべく多くの卵を採っておいたほうがいいの ではないでしょうか。
いずれにしても、次の治療はなるべく急いだほうが いいですか?
俵先生 早めに治療を開始したほうがいいというの はもちろんなのですが、出産後、赤ちゃんを母乳で 育てることになると、お休み期間が長くなってしま う場合があります。
なかには2年以上授乳が続いて しまう人も。AMH値が低くて、第2子の妊娠を考 えていらっしゃるのなら、早めに断乳をされるなど、そのあたりからスケジュールを立てていくことが大 切だと思います。
子宮筋腫の悪影響
また、あかしおさんには採卵の妨げになるほどの 宮筋腫もあるようですが、これについては問題ないの でしょうか。
俵先生 5㎝というのは結構大きな筋腫だと思います。
子宮よりも大きいということになりますから。
第 1 子 の治療で採卵時に針が刺せなかったことは、次の治療 の際も同様の結果になる可能性が高いですね。
2人目のお子さんの妊娠を考える時に、子宮筋腫の 治療も計画に入れる必要があると思います。
今回は無 事に妊娠されましたが、その後の経過を見てどうされ るか。
当院では、6㎝を超える大きさであれば手術を 念頭に入れています。
子宮筋腫があると、妊娠や出産に悪い影響があるの ですか。
俵先生 子宮筋腫は女性ホルモンの影響で大きくなる といわれています。
妊娠中、それほど大きくならない 人もいれば、ぐんぐん大きくなってしまう人も。
妊娠中に大きくなってしまうと筋腫が変性を起こして腐っ たような状態になり、腹痛や発熱の原因になってしま うことがあります。
炎症が起きると子宮は収縮してし まうので、ひどくなると早産につながってしまうケー スもあるんですね。
また、筋腫があると帝王切開にな る確率が高いという報告もあります。
妊娠中だけではなく、分娩時もトラブルを起こして しまうことがあるのですね。
俵先生 手術で切除するのが好ましいと思いますが、 筋腫の手術の後、半年ほど避妊をしなければいけない 場合もあります。
それにプラスして、出産後は2~3ヵ 月ほど休養をとらなければいけません。
不妊治療もなるべく早く始めたいので、この調整を どうするかですね。
当院では、採卵をして一旦全胚凍 結し、核出術後、妊娠許可が出てから融解胚移植をす るという方法をよく取り入れています。
採卵してから 手術か、手術してから採卵かのタイムスケジュールに ついては、不妊治療の担当医と手術を担当する婦人科 医と相談し、最適な方法を選んでいただきたいですね。