ホルモン補充周期の 基礎体温について 教えてください
宮崎 和典 先生 大阪医科大学医学部卒業。学生時代の新生児医療への興味がきっかけと なり、体外受精や不妊治療の世界を志す。同大学産科婦人科講師を経て、 1992年に不妊症、不育症治療専門クリニック、宮崎レディースクリニック開 業。開業当初より泌尿器科の専門医による男性不妊外来を開設する。A型・ しし座。今春から常勤の新しいドクターが就任し、さらに専門施設としての体 制が整った同クリニック。先生も今までどおり、患者さんの目線に立ったきめ 細かい診療を続けています。
にもさん(38歳)からの相談 Q.今週土曜日のDay22に、凍結胚盤胞を移植予定です。ホルモン補充周期で前周期 は高温期よりブセレキュア®をDay16まで使用。エストラーナテープ®をDay1か ら1日おきに貼り、Day17より朝晩プロゲステロン腟剤を使用。Day19に黄体ホルモンの注射をしています。ですが、腟剤使用後も体温が上がらない状態です。 基礎体温はあてにならないことはわかっていますが、腟剤は体温を上昇させるもの と思い不安でなりません。黄体ホルモン不足でしょうか? 明後日の移植に問題は ないのでしょうか? 移植する前から諦めモードになってしまい、泣きそうなくらい不安です。どうかご回 答よろしくお願いします。
視床下部の働き
ホルモン補充周期の胚移植前に、黄体ホルモンの注射や腟坐薬を使用しても体温が上がらず、黄体ホルモン不足かというご相談です。そもそも、黄体ホルモンと体温の上昇にはどのような関係がありますか?
宮崎先生 体温の調節中枢は間脳の視床下部にあります。
つまり体温は脳で感じるものであり、黄体ホルモンを感知する体温中枢がどれだけ敏感に反応しているかというだけの話なので、そう心配することはありません。
プロゲステロンには体温を上げる働き、エストロゲンには下げる働きがあり、この2つの兼ね合いで体温は上がったり下がったりするのです。
プロゲステロンは、本来、排卵が起こると自然に分泌されるホルモンですが、ホルモン補充周期というのは人工的に排卵をしたホルモン状態にしているので、内膜の厚さが十分あれば、体温が上がらなくても、そう心配はいらないと思います。
体温の変化は結果
貼り薬、腟坐薬、注射を行っていても体温が上がらないことを気にされていますが。
宮崎先生 子宮内膜を厚くする方法はいろいろあるけれど、これですべてOKというものではありません。
黄体管理といいますが、使用する薬の種類や量も施設によってかなり違いがあって、内服薬だけとか、腟坐薬は使わないとか、それぞれドクターの方針があるようです。
正直、患者さんによってどれが一番有効なルートか、使ってみないとわからないところがありますので、当院でも貼り薬、塗り薬、内服薬、腟坐薬、注射を併用しています。
腟坐薬を用いることが多いのは、腟から子宮の内膜に直接達するので、全身に回るよりも浸透効果が高いと思われるからです。
とはいえ、薬剤が確実に入っていく注射のほうが反応のいい人もいるし、そんなに気にするほどのことはないと思いますね。
ただ、なかなか子宮内膜が厚くならない体 質の方がおられるので、黄体管理をやるのとやらないのでは、ホルモン値に明らかに差が出ます。
しかし、先ほどの話にもあったように、体温は脳で感じるものだから、体温中枢が上がらなくても、そう心配することはないでしょう。
体が温まったから妊娠するのではなく、あくまでもホルモン値が上がることによって体温が上昇しているだけ。体温上昇は結果に過ぎません。
凍結胚盤胞移植を続けよう
今後はどのように治療していくのがよいでしょうか?
宮崎先生 治療歴やグレードがあまり詳しく書かれていないので、はっきりしたことは言えませんが、胚盤胞まで到達している凍結胚があるのなら、状況はそれほど悪くありません。
アンタゴニスト法での誘発法も、にもさんに合っているのでしょう。
黄体管理も丁寧にされていると思います。
年齢的にもまだ十分チャンスはありますので、今後も凍結胚盤胞の移植を頑張ってみてください。