卵管閉塞、精子無力症ですが 人工授精で授かるのは無理 ? 顕微授精に進むべき ?
北村 誠司 先生 慶應義塾大学医学部卒業。1989年からIVFおよび内視鏡手術に従事。 子宮鏡下手術による胚移植の改善や、腹腔鏡下手術による子宮筋腫、 内膜症の解消・改善を積極的に図ると同時に、妊娠困難症例に対しても 新しい治療を取り入れて対応。本院(荻窪病院)泌尿器科の男性不妊専 門医の協力により、TESE-ICSIや逆行性射精など、男性不妊の治療体制 も整えている。AB型・いて座。このところ、患者さんをお待たせする時間 が増えてしまって、大変心苦しく思っていると先生。「施設が充実するよう、 検討しています。また、消費税は8%に上がりましたが、自費分の診察料は 据え置きですのでご安心ください」。
tomoさん(36歳)からの相談 Q.結婚して5年、不妊治療歴2年です。20代前半に卵巣腫瘍の手術をしましたが、卵 巣は温存。2年前から不妊治療を始めて、前の病院で人工授精を6回。転院先で片側卵管閉塞と子宮ポリープが見つかり、子宮ポリープは先日手術で取り除きました。 夫の精子の運動率が2%と極端に低く、転院先でも人工授精に2回トライしました が、妊娠には至りませんでした。人工授精を続けるには、卵管閉塞を手術で治すべき でしょうか? それとも、体外受精や顕微授精に進むべきでしょうか? 早く子ども が欲しいとは思っていますが、できることなら、なるべく自然に近い流れで、人工授精までで妊娠できればと望んでいます。主治医からは、「卵管閉塞の手術はせずに、 思いきって顕微授精をしてみては」と提案されましたが、セカンドオピニオンをお聞 かせください。
卵管手術?ステップアップ?
片側卵管閉塞の手術をすべきでしょうか?
北村先生 おそらく、子宮卵管造影検査で卵管の通過性を確認されただけなのでしょう。
当クリニックでは、子宮卵管造影検査で卵管が写らない場合は内視鏡を使って通水しますが、この通水だけで9割近くの方は卵管の通過が確認できます。
当院では行っていませんが、FTカテーテルを使った手術も一般的です。簡単な手術ではありませんが、手術時間は1時間以内で、日帰りも可能です。
片側の卵管が通っていないということは、妊娠のチャンスが半分になるということ。
人工授精など、できるだけ自然な流れでの妊娠を望む場合においては、卵管閉塞は小さな問題ではありません。
しかしながら、どちらの治療法も100%根治できるものではなく、少なからず再発される方もいらっしゃいます。
ただ、tomoさんの場合は、卵管閉塞よりももっと深刻な不妊因子があります。
結論から先に言えば、卵管閉塞の手術はせずに、顕微授精へのステップアップが良策でしょう。
精液所見と顕微授精
ご主人が精子無力症とのこと。泌尿器科を受診されましたが、原因は不明です。
北村先生 精子の運動率が2%というのは、極端に低い数値です。
以前はもう少し良かったとのことですが、精子の数、精液量などは採取した日によって変化することはあっても、受精能力に関してはあまり波はないと考えています。
ホルモンや染色体の異常、精路の感染症といった明らかな原因があれば、まだ手立ても考えられますが、不明とのこと。
さらに、年齢を重ねるほどに造精機能も落ちますので、この先、精子の運動性が上がることは期待しづらいと考えるべきでしょう。
こういったケースの場合、当クリニックで は「この状況でしたら、人工授精で妊娠する確率はゼロに近いです」とご説明したうえで、顕微授精をおすすめします。
一般的には、人工授精4~5回を目安に、体外受精あるいは顕微授精とステップアップしますが、精子の所見によっては、すぐに顕微授精をすすめることもあります。
tomoさんの場合、人工授精をこれ以上くり返すのは、費用と時間の無駄遣いになる可能性が非常に高いと言わざるをえません。
自身の意見が最優先
「できれば、人工授精までで授かりたい」というお気持ちですが。
北村先生 まだ 36 歳とお若いですし、不妊治療は患者さんご自身のご意向が最優先ですから、「可能性がゼロに近くても、ゼロではないのなら人工授精までで」とこだわっていらっしゃるなら、そのご意向を優先します。
その場合、可能性としては、日本にはまだ 数十名しか男性不妊の専門医はいませんが、男性不妊を専門とする泌尿器科を訪れることをすすめます。
ただ、もし治療が漢方薬などでの体質改善となると、効果が表れるまでに3~4カ月ほどはかかるでしょう。
それで確実に改善するかどうかも不明です。やはり、早めに顕微授精を検討してみてください。