初回の排卵誘発で 10個採卵できたのに 今回、ゴナールエフ®の投与量が 倍増したのはなぜ?

1回目の排卵誘発では10個採卵できたにもかかわらず、 2回目は排卵誘発剤・ゴナールエフ®の投与量が倍に。

その理由とは? セントマザー産婦人科医院の田中温先生に聞きました。

田中 温 先生 順天堂大学医学部卒業。越谷市立病院産科医長時代、診 療後ならという条件付きで不妊治療の研究を許される。度重な る研究と実験は毎日深夜にまで及び、1985年、ついに日本 初のギフト法による男児が誕生。1990年、セントマザー産婦 人科医院開院。日本受精着床学会副理事長。2009年〜 2011年までJISARTの理事長に就任。円形精子細胞による 画期的な治療法を発表して、生殖医療界に新たなページを刻 んだ田中先生。「この治療による妊娠率・出産率が高いという 事実を知ってほしい。後進にはいつでも技術提供しますから、 遠慮なく見学に来てください」と熱く語ってくださいました。

この薬が知りたい!

●ゴナールエフ ®

排卵誘発剤の一種で、FSH (=ヒト卵胞刺激ホルモン) 製剤に属する注射薬。
女性の 卵巣に働きかけ、黄体化ホル モンであるLHと協力して卵 子をつくる働きがある。
ペン 型注射器を用いて自己注射 をすることもできるので、生 活のリズムに合わせた不妊治 療が可能。
chisatoさん(36歳)Q.先日、2回目のIVFで採卵を行いました。HMG製剤の注射を1週間行っ た後、卵胞を計測すると、卵巣の脇に大きな影があることはエコーでわ かっていましたが、採卵を優先。10個の採卵後、顕微授精で4個の胚盤胞を現在凍結中です。1カ月後、エコーの影が気になったため、医師に MRI検査をお願いすると、8㎝の卵巣嚢腫と判明し、開腹手術をすすめら れました。※AMHが6.28ng/mLで、OHSSになりやすいそうです。 治療での疑問は、1回目の採卵で十分な卵子が採れたのに、薬の量が倍 増したのはなぜなのか。OHSSで卵巣嚢腫になるのか。エコーで大きな 影が映っているのに医師が検査をすすめなかったのはなぜか、この3点 です。2年間通院していますが、不信感が募っています。

■これまでの治療データ

検査・ 治療歴

不妊治療歴2年。
2012年5月、子宮筋腫核切除後、 IVFで採卵1回、胚移植3回。
現在、2回目のIVF中。

不妊の原因 となる病名

男性不妊

現在の 治療方針

ゴナールエフ®300IUを4日間、 ゴナールエフ®50IU+フェリング®150IUを5日間。

精子 データ

精子の数が少ない。

卵巣嚢腫について

最初に、chisatoさんの質問を読まれて先生の考えをお聞かせください。
田中先生 今回の相談は、複数の問題がありますね。
まず男性不妊。
そして、子宮筋腫の手術、8㎝の卵巣嚢腫。
OHSSの可能性もある。精子については所見のみで数値がないので判断しかねますが、顕微授精をしているということなので、おそらく精子の状態はあまり良くないのでしょう。
排卵誘発で、 10 個採卵できて胚盤胞まで成 長したのは4個ですから、年齢的に見てもかなり成績は良いと思われます。
気になるのは、卵巣嚢腫がいつからあるの か、ということ。
もしも、この嚢腫がチョコレート嚢腫であるならば、順番としては手術が先です。
現在、子宮内膜症のがん化(卵巣たん明細胞腫瘍=卵巣明細胞腺がん)が問題になっています。
直径5㎝以上が手術の適応です。
chisatoさんは8㎝もありますから。
超音波で見れば、子宮内膜症による卵巣嚢腫なのか、単に腹水が溜まっている良性のものなのかは簡単にわかります。
MRI検査で開腹手術をすすめられたのであれば、悪性の可能性も高いと考えられますから、何よりもまずは手術ということになります。

開腹手術、腹腔鏡手術

どのような手術になりますか?
田中先生 悪性の場合は開腹手術が一般的です。
しかし、良性の場合や、腹腔鏡手術ができるクリニックであれば、術後の癒着など二次的なことを踏まえると腹腔鏡手術で十分です。
主治医にその選択肢がないのかを確認してから方法を決めましょう。
いずれにしても、8㎝というのはちょっと大きすぎです。
疑いが少しでもあるのなら、早め早めに決断することが大切です。
 特に、chisatoさんの場合は凍結胚が4個ありますよね。
その分、治療に余裕があるのですから、まずは手術して、その後に凍結胚を戻すということを考えていただければいいと思います。

ゴナールエフ ® の量

1回目の治療で十分な卵子が採れたのに、2回目ではゴナールエフ ® の量が倍になったということですが、その理由についてはどう考えられますか?
田中先生 これはちょっと理解に苦しむところです。
卵巣が腫れてきたから薬の量を倍にしたのかもしれませんが、通常、腫れてきた場合は注射しないというのが常識ですから。
1回目で 10 個採卵できて4個凍結できたと いうのは、非常に良い成績ですよね。
しかし、2回目は1回目に比べて、胞状卵胞の数が非常に少なかったとか、FSHの値が高くなっていたなど、卵巣の老化というような所見があったのかもしれません。
もしかしたら、排卵誘発剤を増やした理由はそこにあるのかもしれませんね。
一般的に、月経3日目の胞状卵胞の数を見れば、卵胞が何個できるか大まかな予測がつきます。
前回と同じ方法、薬の量でいいかどうかは、この胞状卵胞の数と、LH、FSHのホルモン値の検査が必須であり、それが根拠になりうるのです。
chisatoさんは治療を始めて2年目 で、主治医に対して不信感が募っているようですね。
それならば、すぐにでも転院して、信頼関係が築ける医師に診てもらうことをおすすめしたいところです。
しかし、凍結胚が残っている間は、今すぐに、というわけにはいきません。
なぜなら、施設によって、また胚培養士によって、凍結の方法や融解の仕方が微妙に違うため、他院に移すことはおすすめできないからです。
凍結胚は、凍結した病院で戻す、というのがベストです。
そのことをよく理解していただいて、まず は、8㎝の卵巣嚢腫について正確に診断するために、MRI検査と腫瘍マーカー、血液検査の結果を出す。良性という結果であれば、すぐに凍結胚を戻して、転院を。
悪性であれば、手術してから経過をみる、凍結胚を戻す、転院、という流れで再スタートを切るということを、選択肢の一つとして持っていただきたいですね。
chisatoさんのように、OHSSになる可能性がある場合や、卵巣の腫れがある場合などの排卵誘発法、薬の使い方など、全体を通してのアドバイスをお願いします。
田中先生 AMHの値だけでは、OHSSかどうかの判断はできません。
月経中の胞状卵胞の数が左右 10 個未満であればOHSSにはならないので、普通に排卵誘発ができます。
排卵誘発法は画一的に行う場合も多いので すが、その人に一番合った方法を見つけるためには月経3日目までの内診が得策です。
月経中の内診は患者さんとしては躊躇してしまうかもしれませんが、内診の方法にもいろいろと対処を行っている病院もあります。
月経3日目までは情報量が非常に多く、ホ ルモンも一番わかりやすいので「、自分に合った排卵誘発法を見つけるために、月経中の内診が有用だ」という意識を、患者さんにも持っていただきたい。
あくまでも検査の目的は、正確な情報を得て、患者さん一人ひとりに合った誘発法を見つけるためだということをぜひ知っておいてください。
そして、嚢腫がある場合は悪性かどうかの 診断を、MRI検査と腫瘍マーカー測定、血液検査で的確に行ってください。
子宮内膜症は、それだけなら良性疾患なのですが、6㎝以上の嚢腫はがん化する可能性があります。
そのことを、患者さんもしっかりと認識していただきたいですね。
※AMH(抗ミュラー管ホルモン): 発育卵胞、前胞状卵胞から分泌されるホルモン。血液中のAMHの検査値から卵巣の予備能を知ることができる。ミュラー管抑制因子ともいう。年齢によって基準値が異なり、31歳 以下では6.21ng/mL、40歳代半ばでは1.00ng/mL程度。
※OHSS(卵巣過剰刺激症候群):排卵誘発法により多数の卵胞が発育・排卵することで、卵巣が腫れる、腹水や胸水が溜まるなどの症状がみられる。
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