特集1 胚移植の ギモン&不安
初期胚や胚盤胞など、どのような状態の受精卵を移植するのが 今の自分の体にとってベストなのでしょうか?
京野アートクリニックの京野廣一先生に教えていただきました
京野 廣一 先生 福島県立医科大学卒業後、東北大学医学部産科婦人科学教室入局。1983年、チー ムの一員として日本初の体外受精による妊娠出産に成功。1995年レディースクリニッ ク京野(大崎市)開院、2007年、京野アートクリニック(仙台市)開院。そして2012年秋、 東京・高輪に新クリニック「京野アートクリニック高輪」を開院。100年以上継続するクリ ニックを目指し、真摯な姿勢で生殖医療に取り組む。以前と比べてすっきりスリムになられ た京野先生。生活習慣病の予防など健康を考えて、移動はなるべく自転車や徒歩で。そ の成果か、体重が3~4kgダウン。秋までにもう少し絞り込みたいそう。
目次
ココがポイント
両卵管なしの場合の移植
○着床率に関しては初期胚より胚盤胞のほうが優位
○胚盤胞移植なら子宮外妊娠のリスクも低減できる
孵化中胚盤胞について
○孵化中胚盤胞は元気な受精卵なので移植するには望ましい
○凍結には時間がかかるが、妊娠や赤ちゃんへの影響はない
いちごさん( 40 歳) Q. 両卵管がありません。医師からは胚盤胞移植をすすめられていますが、私は移植キャンセルを避けたいので、初期胚か桑実胚での移植を希望しています。どちらを選択したらいいのでしょうか?
着床率においては 胚盤胞が優位です
いちごさんは先生から「子宮と卵管の環境は違っており、胚盤胞以前の胚には卵管の成分が必要で、卵管不妊でも卵管さえあれば、その成分が子宮にも入り込んでいるので初期胚・桑実胚でも可能性はある。
しかし、両卵管なしではそもそも卵管の成分がないので、胚盤胞のほうが間違いなく可能性が高い」と言われたと質問表に書いてありますね。
確かに、初期の受精卵を戻すと、その受精卵が1回卵管に戻って卵管の成分を含み、それが着床にいい影響をもたらすという考え方を持つ施設や先生もいらっしゃいますが、どの形が最善なのかは、まだ結論は出ていません。
ただし、卵管の有無に限らず、初期胚よりも胚盤胞での移植のほうが着床率が高いというのは間違いないことだと思います。
胚盤胞まで育つということは、それだけ生命力のある元気な受精卵だということ。
さらに、胚盤胞を凍結して移植をすれば、子宮内膜をいい状態に整えてから戻すことができるので、着床もスムーズにいくということです。
着床率や妊娠率も重要ですが、い ちごさんの場合、心配なのは子宮外妊娠です。
両卵管がないというのはおそらく、子宮外妊娠で切除されたのでは?
その時、卵管のどの部分 から切除されたのでしょうか。
胚盤胞移植なら 子宮外妊娠のリスクも低減
卵管には、子宮と卵管の間の間質部、そこから卵管采までの間に峡部、膨大部という部位があるのですが、卵管を切除する場合、通常は峡部から取ります。
子宮外妊娠は、子宮頸部、腟と子宮体部の間、それに卵管間質部でも起こりますから、間質部が残っている場合は、胚盤胞移植のほうが望ましいかもしれません。
胚盤胞まで育っていたら着床するまでにいろいろな場所を移動する時間がないので、初期胚に比べて子宮外妊娠の可能性も低くなる。
それは学会でも報告されています。
初期胚移植が絶対によくない、妊娠しないとは一概にいえません。
施設によっていろいろなお考えもあるでしょう。
ただ、当院としては子宮外妊娠のリスクが低く、なおかつ着床率も高いということで、もし胚盤胞まで育つのであれば、胚盤胞移植をすすめると思います。
胚盤胞まで育ちそうか、その状況をみてから決められてはいかがでしょうか。
ソフィレンジャーさん( 33 歳) Q. 両側卵管閉塞で孵化中胚盤胞移植をする予定ですが、孵化中の胚盤胞を凍結するのは、よくあることですか? 中身が出てしまっている胚盤胞を凍結したり、さらに解凍したりしても大丈夫なのでしょうか?
孵化中胚盤胞は 成長が進んだいい受精卵
胚盤胞の育ち方は、胞胚腔の広がり具合で、① early blastocyst 、 ② blastocyst 、③ full blastocyst 、 ④ expanded blastocyst 、⑤ hatching blastocyst 、⑥ hatched blastocyst の6段階で評価をしま す。
孵化中胚盤胞は5番目のレベルで、受精卵の透明帯、いわゆる殻の部分から赤ちゃんのもとになる中身が出始めているもの。
着床寸前の状態ですね。成長が進んだ非常にいいもので、この状態の胚盤胞で移植ができればベストなのではないでしょうか。
凍結しても大丈夫なのかというご 質問ですが、結論からいえば、孵化中の胚盤胞であっても特に問題はないと思います。
妊娠や赤ちゃんに影響が出てしまうのではというご心配は必要ないでしょう。
ただし、施設によっては凍結をす る大きさを決めている所もあります。
140マイクロとか、160マイクロとか、ある程度の大きさになったらもう凍結を始めてしまう。
当院でもそのようにしています。
透明帯という殻を破る前の段階で凍結をするようにしているんですね。
胚培養士が朝一番で見て、孵化する直前であれば急いで凍結しますし、まだ小さいようだったら大きくなるのを待つようにします。
凍結に時間を要しますが 特に問題はありません
なぜそのようにするかというと、受精卵があまり大きくなりすぎると、凍結するための保護剤が入りにくくなってしまうんですね。
凍結するためには、細胞の中に含まれる水分を保護剤と置換してあげなければいけないのですが、大きければ大きいほど、置換するまでに時間がかかってしまいます。
保護剤が入りにくいということは、それだけ長い時間外に出しておくということ。通常の胚盤胞に比べて妊娠率に違いが出るということはありませんが、なるべく受精卵にストレスをかけないという意味で、孵化する前に凍結をするようにしています。
たとえ孵化中のものであっても、それほど大きくなければ凍結も融解も問題はありません。
胚盤胞は時間とともにどんどん成長が進んでいくので、患者さんから「この段階で凍結してください」とリクエストを出すのはなかなか難しいことです。
その点は、卵の専門家である胚培養士がきちんと見極めて適切な処置をしているので、信頼してお任せいただきたいですね。
また、凍結胚盤胞の場合、融解し た後に3時間程度培養します。その間にも、さらに大きく成長していくものもあります。
凍結した時点では3ABくらいのグレードのものが5ABにまで成長してしまうこともあります。
孵化中胚盤胞のように殻をハッチングしたりするというのは、非常に元気がいいということ。栄養をどんどん吸収して、中身を外に出そうとする勢いのある胚盤胞ということです。
妊娠する力も大きいのではないでしょうか。
とにかく、凍結が可能だと判断されているものであれば、ご心配はいりません。
もし不安が残るようであれば、医師や看護師、もしくは胚培養士とコンタクトがとれる施設であればご相談して、詳しい説明を受けられるといいのではないでしょうか。