病後の胚移植不安の解消法は?

特集1 胚移植の ギモン&不安

病気治療前に採卵した卵子での胚移植。

最後と思うとためらいが。

早期の胚移植をすすめられているが、心の準備ができない……。

不安の解消法について、木場公園クリニックの吉田淳先生に伺いました。

吉田 淳 先生 愛媛大学医学部卒業。産婦人科・泌尿器科医。生殖医療指導医・臨 床遺伝専門医。東京警察病院産婦人科、池下レディースチャイルドク リニック、東邦大学第一泌尿器科非常勤講師などを経て、1999年木 場公園クリニックを開院。不妊症治療の情報収集のため、アメリカや日 本国内の不妊症専門施設の見学・研修を数多く積んでいる。「ついに “100マイラー”になったよ!」と吉田先生。100マイラーとは、100マ イルの山岳レースを時間内に完走した人のこと。41時間以上も走っ た後の先生の足はまだ血豆だらけなのに、「次は何にチャレンジしよう?」 と涼しい顔。

ココがポイント

胚移植のタイミング

〇最終的な判断は自分で、納得できるように
〇医師からタイミングを提示されたら、その理由を確かめて

不安解消法

〇不安・ストレスこそが妊娠率を下げるので、くよくよしない
〇「夫婦二人で不妊治療をしている」と、一体感を持つこと
ronさん( 42 歳) Q. 4年前の夏に橋本病、秋には肛門がんを発症。がん治療の前に卵子を凍結し、完治した今年から不妊治療を始めました。5月の胚移植は残念ながら実を結ばず、次回が最後のチャンスです。私としては心の準備をして秋頃に、と思っているのですが、主治医からは早期の移植をすすめられています。悔いのないようにしたいのですが、心掛けるべきことなどはありますか?

症状が安定しているなら 神経質にならないこと

これまでよく頑張ってきましたね。
ronさんご自身も「昔なら、病気のために妊娠は諦めざるを得なかっただろうに、胚移植という希望が持てただけでも感謝している」と相談内容に書かれていますが、まったくその通りだと思います。
これまで、病気・闘病などによって妊娠を諦めざるを得なかった方が多くいらしたなか、治療前に卵子を確保できたことは不幸中の幸いでもあり、命を危ぶまれるようなつらい経験をなさったからこそ、お子さんを持ちたいという気持ちも強くなったのでしょう。
卵子凍結は、そういった方々のた めに利用されるべき治療法であり、技術も日に日に進歩しています。
世界的に見てもそういう状況で妊娠された方は少なくないと思うので、どうぞronさんも希望を捨てないでください。
さて、橋本病については、甲状腺 機能が低下する病気ですが、適した投薬によって症状が抑えられれば問題なく過ごせます。
治療によって現在の症状が安定しているのなら、神経質にならないことです。
がん治療のための放射線による子宮への影響はないとは言い切れませんが、前回の胚移植の結果から推測すると、ホルモン剤を使用して子宮内膜が十分に厚くなっていれば、ほとんど問題はないと思います。
卵子は治療前に確保しているので、もちろん影響はありません。
あとは、胚を戻すタイミングを図るだけだと思います。

移植は早いほうがいいが 夫婦の納得が前提

胚移植のタイミングですが、私も主治医の先生と同じ意見で、年齢的にみても、少しでも早いほうがいいと思います。
特に、ronさんの場合は余病が発症しないともかぎらないので、現在のコンディションがいいなら、できるだけ早めの移植をおすすめしたいところです。
胚の戻し方は、自然周期、ホルモン補充周期と大きく分けて2つの方法がありますが、自然排卵のないronさんの場合は、ホルモン補充周期となります。
医師の見解にもよりますが、一般的には、ホルモン補充周期のほうが妊娠率は高いとされています。
また、ホルモン補充周期の場合は、AMH値の低さなどもまったく関係なくなります。
当クリニックでは、原則的にホル モン補充周期です。
自然周期と組み合わせる場合もありますが、まったくの自然周期だと黄体機能不全になったりすることもあるので、セキソビット ® など、クロミッド ® よりも弱い卵胞刺激ホルモンを飲んでいただいてから、胚を戻すことになります。
黄体から出ているホルモンの補充としてルトラール ® 、ジュリナ ®を併用します。
ronさんの使用薬剤を見るかぎ りは、適切な治療をされていることが窺えるので、あまり心配なさらずに、早期の胚移植も考えてみてください。
しかしながら〝、患者さんのお気持 ち〞を、医師としては軽視するわけにはいきません。
ronさんが、 「心の準備をする時間が欲しいので、秋頃にしたい」と望まれるなら、そうしたほうがいい。
後悔が残らないように、十分に納得してから胚移植をされるといいでしょう。
その間、風疹の抗体検査、余裕が あれば、婦人科系の検診、子宮鏡検査なども受けられるといいでしょう。

〝ストレス〞こそが 妊娠率を下げる原因!

でも、医師としてあえて苦言を呈させていただけるなら「時間をかけて悩んでも、どうにもならない」ということです。
とにかく、余計なことは考えないにかぎります。
考えてどうにかなることだったら、とことん考えるべきですが、 「どうしたら妊娠できるだろう、何をすればいいのだろう」とやみくもに考えることは不安を増幅させるだけで、何の意味もありません。
それどころか、不安や精神的ストレスこそが、妊娠率を下げる原因となりかねないのです。
性格を直すことは容易ではありま せんし、 「最後のチャンス」と思うとためらいが生じるのも理解できますが、やるだけのことをやったら、あとは天命を待つしかないのです。
もちろん、医師はできるかぎりの手は尽くします。
その医師が、 「秋まで待たず、早めに移植をされたほうがいいのでは?」と言っているなら、それには必ず意味があり、根拠があります。
「なぜ早めの胚移植をすすめるのか」、主治医の先生ととことん話し合ってみるといいでしょう。
カウンセラーが常駐するクリニックも増えていますので、医師に話しかけづらければ、そういったスタッフに相談してみるのも一つの手段です。
ご自分でできることとしては、ウ ォーキングなどの軽い運動、音楽を聴くなどして気分転換を心掛けるといいでしょう。
特に運動で適正体重を保つことは大切なことですし、健康な体づくりは基本です。
でも、これも「やらなくては!」と精神的な負担になるなら逆効果です。
とにかく、自分に合ったストレス解消法を見つけてください。
一番のおすすめは、夫婦仲良くす ることです。
夫婦の時間を多く持つよう心掛け、会話や夫婦生活などでコミュニケーションを深め、 「夫婦二人で不妊治療をしている」という一体感を持つことが大切です。
特に、生理がなくなると、妊 娠の可能性がないからと夫婦生活がおろそかになるケースが多いのです。
大切なパートナーに愛情を持って接してもらう、これ以上の不安解消法はないのではないでしょうか。
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不妊治療に関するドクターの見解を取材してきました。