松浦 俊樹 先生 浜松医科大学医学部大学院終了。2002年に渡米、アメリカでリサーチ フェローとして生殖医療の基礎・臨床研究に従事し、最先端の体外受精、 胚培養技術について学ぶ。加藤レディスクリニック、浜松医療センター新生 児科などを経て、浜松医科大学附属病院助教に。2008年「母と子かば クリニック・リプロダクションセンター」センター長就任(現こうだちリプロダク ションセンター)。同センターは2013年7月に移転し、アクトタワークリニッ ク院長に就任。A型・おひつじ座。「人間の本来持っている妊娠力を生か す治療」を目指す先生。自身の手で顕微授精やTESEの施術まで行えるた め、女性だけでなく、多くの男性患者からも信頼を寄せられる。
ツルさん(32歳)からの相談 Q.治療3年目。現在、週に1回カバサール®1錠とプロゲストン®を排卵後に毎食後2錠服 用しながらのタイミング療法です。以前から子宮筋腫がありましたが、漿膜下筋腫で30 ㎜ぐらいなので、そんなに気にすることはないと言われてきました。しかし、いっこうに 妊娠せず、たまに妊娠しても化学流産してしまうため、MRIで検査したところ、漿膜下筋腫だけではなく、小さい筋層内筋腫が4~5個ありました。また多嚢胞性卵巣症候群 (PCOS)だと言われました。 妊娠の確率を上げるために子宮筋腫を取ったほうがいいといわれていますが、正直、戸 惑っています。本当に確率が上がるのでしょうか? 人工授精も考えていますが、取らない と意味がないでしょうか。それと、PCOSは排卵しづらいと聞きました。病院に行くたびに 排卵後、排卵前に卵胞チェックをしてもらっていましたが、たまに排卵を確認できない時も ありました。しかし、これはエコーで見ているだけで、実はどうなのか気になります。
子宮筋腫と不妊治療
主治医の先生に手術をすすめられて、子宮筋腫を取るべきかどうか迷っていらっしゃいます。
松浦先生 一番大切なことは、主治医の先生とよく相談されることだと思います。
その理由は、子宮筋腫を大きさだけで語ることは難しく、どの位置にできているかということが、治療を大きく左右するからです。
若い患者さんは、妊娠の徴候があって初めて婦人科に来られる方が多いのですが、その時に子宮筋腫が見つかる方が非常に多いです。
たまたまツルさんは妊娠前に不妊治療をされていたから筋腫があることがわかっていますが、実際にはいろいろなケースが存在します。
たとえば、子宮筋腫があったけれど妊娠した人、筋腫があるためになかなか妊娠しない人、妊娠するけれど流産をくり返す人など。
時々、私たちが驚くくらい大きな筋腫があっても妊娠する方もいらっしゃいます。
ご相談の内容だけではどの位置に あるのかがわかりにくいのですが、MRIの検査をされたということですので、主治医とじっくり相談されることが一番です。
今はセカンドオピニオンという方法も一般的になりました。先生にお伝えして、MRI画像をお借りしたうえで、別の病院の先生に意見を伺ってもいいと思います。
子宮筋腫と人工授精
人工授精についてはいかがでしょう。筋腫の摘出手術をしなければ、意味がない治療だと思われますか?
松浦先生 意味がないということもありませんが、通常の夫婦生活で妊娠しておられるので、人工授精をすることが妊娠率を格段に向上させることはありません。
人工授精は、ご主人の精液が少ない場合、もしくは精子の動きが悪い場合に有効な手段です。
気分転換ということもありますし、まったく意味がないとは思いませんが、それほど結果を期待できませんね。
PCOSについて
PCOSということですが、卵胞チェックもこまめに受けておられます。
松浦先生 PCOSの方の場合は、卵胞に卵の袋が確認できていて、排卵後のチェックでこの袋がつぶれていたとしても、実はこの袋の中に卵子が入っているかどうかはわからない。
ツルさんがおっしゃるように、排卵現象は起きているのですが、中に卵子があるかどうかは妊娠してみないとわからないということなのです。
普通の夫婦生活で妊娠しないとい うことは、卵胞の中に卵子がないか、もしくはあったとしても卵管がうまく卵子をキャッチできないピックアップ障害が不妊の原因と考えられます。
当院であれば次の治療法として、1個の卵子を採卵して体外受精させる方法を提案します。
子宮筋腫の手術をするのであれば、術後、半年程度は妊娠を避けるように言われるはずです。
32 歳という年齢を考えると、手術するならぜひ早めに受けてほしいですね。
※子宮筋腫:子宮壁にできる良性の腫瘍で、筋腫の発生する場所により漿膜下筋腫、筋層内筋腫、粘膜下筋腫に分けられる。漿膜下筋腫は子宮の外側に向かって成長するため、大 きくなると卵管などを圧迫する可能性があり、不妊の原因となる。筋層内筋腫もまた大きくなると子宮腔を変形させ、受精卵の着床を妨げる。
※ピックアップ障害:排卵した卵子を卵管内にキャッチできないもの。卵管の炎 症などによる卵管采の癒着が原因となる。