藤野 祐司 先生 大阪市立大学医学部卒業。米国留学、同大学医学部婦人科学教室講師 を経て、1997年にクリニックを開業。現在、同大学で非常勤講師も務める。 B型・おとめ座。谷村新司さんと夏木マリさんの「あれから」という歌が好きで、 クリニックのスタッフとライブに赴くこともあるそう。今回の撮影は、その時に 購入したというライブTシャツで爽やかに登場してくださいました。
ひつじやまさん(36歳)からの相談 Q.多発性子宮筋腫(筋層内と粘膜下)のうち、妊娠の障害となっている可能性のある子宮粘膜下筋腫(10㎜程度)を子宮鏡下手術で摘出し、6周期が経ちました。手術後はタイミン グ指導をしてもらっていましたが、妊娠せず……。これまでの検査で、不妊原因かもしれ ないと指摘されたのは、子宮粘膜下筋腫のみです。その他は、子宮卵管造影検査で左卵管は通っているが狭いとの指摘がありました。 このような状況で考えられる次の治療は、やはり人工授精でしょうか? 結婚5年目で、 長年妊娠を希望しており、年齢的に焦りと不安があります。今後の治療方針は人工授精5 回、その後に体外受精だそうです。これから人工授精を試みる以外に、できる治療法はな いでしょうか? また、子宮筋腫以外に考えられる原因はありますか。ちなみにAMHは 6.48 ng/mLです。
子宮筋腫の種類
多発性子宮筋腫のうち、妊娠の障害となっている可能性のある粘膜下筋腫を摘出したそうです。子宮筋腫と不妊の関係を教えてください。
藤野先生 子宮筋腫は 30 ~ 40 代の女性の約 30 %が抱えているといわれます。
子宮筋腫には、漿膜下筋腫、筋層内筋腫、粘膜下筋腫の3つのタイプがあります。
この中で一番多いのが筋層内筋腫で、発症率は 50 ~ 70 %。
漿膜下筋腫と粘膜下筋腫は 15 ~ 25 %です。
粘膜下筋腫は、子宮の内側のほう にできて、内側に向かって大きくなる性質があります。
筋腫に圧迫されて、内膜が薄くなると受精卵が着床しにくくなり、妊娠が困難になります。
粘膜下筋腫は不妊原因の1つと言えますが、受精障害にはなりません。
あくまでも着床障害の原因と考えられます。
ピックアップ障害の原因にも
筋腫の摘出後も妊娠しないそうですが、他の原因が考えられますか。
藤野先生 この方は多発性子宮筋腫とのことで、摘出した粘膜下筋腫以外にも筋層内筋腫が複数あるようです。
筋層内筋腫は、文字通り筋層内にできますが、筋腫が内側に突出するか、外側に突出するかは予測ができません。
これらの筋腫が卵管を圧迫したり、卵管の動きに障害を与えていることも考えられます。
左の卵管が狭いと診断されたのは、ひょっとすると、この筋腫が原因かもしれません。
また、卵管検査では「異常なし」とのことでしたが、筋層内筋腫が外に飛び出している場合、卵管を圧迫して卵管采の動きを妨げ、ピックアップ障害の原因となっている可能性もあります。
ですから、残りの子宮筋腫がどの場所に、どの程度の大きさで、いくつできているのかを詳しく調べる必要があると思います。
子宮筋腫はできる場所や大きさに よって、不妊原因だけでなく、妊娠後の赤ちゃんの成長を妨げたり、早産などにつながる可能性もありますから。
ステップアップのタイミング
今後は人工授精5回、その後、体外受精の予定だそうですが。
藤野先生 主治医の先生の方針に沿って治療していくのがベストだと思います。
この方は、AMH値も比較的良好ですし、卵管の通過性もありますから、人工授精による妊娠の可能性は十分にあります。
ただ、人工授精の回数も、際限なく行うよりは、きちんと区切りを設けて、人工授精→体外受精に進まれるのがよいでしょう。
そういう意味では、5回は妥当な回数だと思います。
ただ、あくまでも極論ですが、必 要な検査を行ったうえで、卵管のピックアップ障害や、受精障害の可能性が高い場合は、いきなり体外受精に進むのも1つの方法です。
いずれにしても治療の経過中に、他の子宮筋腫が大きくなっていく可能性はあります。
子宮筋腫の状態を定期的に確認しながら、治療に進んでいくのがいいでしょう。