古井 憲司 先生 1986年日本医科大学卒業。1年間の研修医を経て、1987年名古屋 大学産婦人科学教室入局。名古屋大学産婦人科では文部教官を務める。 さらにその後、大垣市民病院産婦人科医長を経て、1998年クリニックママ を開院。A型・やぎ座。「病院の選択によって、患者さんの半年後の結果が 大きく変わることがあります。それだけに、患者さんからもらったせっかくのチャ ンスを活かせなければ、他のクリニックに移ることも必要な進言だと思い ます」と先生。
かよちんさん(35歳)からの相談 Q.1人目を初めての体外受精で妊娠し、出産。2人目の治療を始めて2年になります。も ともと卵管の癒着があり、両卵管を切除しています。これまですべてクロミッド®で誘発し、 6回採卵しましたが、毎回1個しか採れません。そのうち2個が拡張胚盤胞になり移植しま したが、妊娠には至りませんでした。先生に刺激法を希望しましたが、「卵巣機能が低下し ているのであまり刺激しても意味がない」と言われました。 また、FSHが高いです。2回目の体外受精では、採卵前にプレマリン®、プラノバール®を 1周期服用。Day4の数値がE2:49.8、LH:8.1、FSH:35.9。3回目の時は、Day2 の数値がE2:39.4、LH:4.7、FSH:18.7。私のように既往歴がありFSHも高い場合は、 やはり刺激法よりも、低刺激もしくは自然周期での採卵が適しているのでしょうか?
低刺激にもバリエーションが
6回ともクロミッド ® がメインの誘発法です。1回目と2回目は分割が進まず移植できず、3回目に拡張胚盤胞で移植するも5週で流産。4回目は桑実胚まで、5回目は4分割胚までで移植できず。6回目に再度、拡張胚盤胞で移植するも着床せず、というこれまでの結果です。
古井先生 かよちんさんのデータを詳しく見ると、たとえば2回目の時はDay4で E2 : 49 ・8、LH:8.1 、FSH: 35 ・9。
FSHが非常に 高く卵巣が老化していることが考えられます。
AMHは測っていないようですが、おそらく1以下ではないでしょうか。
このように卵巣機能の低下が推察 される場合には、確かに低刺激のほうがいいという考え方はあります。
ただ、毎回クロミッド ® 単独で1個しか卵子が採れないというのはどうかと思います。
同じクロミッド ® を使う低刺激法にも、やり方はいろいろありますよ。
アンタゴニスト法という選択肢も
先生ならどのような方法を提案されますか?
古井先生 たとえば月経周期の3日目からクロミッド ® を内服しながら、月経周期の7日目から1日おきにFSHを注射するという方法があります。
これですと、クロミッド ®単独では1個しか採卵できない人でも3~5個、多い人では 10 個も採れる場合もあります。
かよちんさんはFSHが高いので 10 個は期待できないと思いますが、2~3個は採れるかもしれません。
それでダメなら、アンタゴニスト 法で少し刺激してみるのも一つの方法です。
ただし経験上、FSHが高い人にはロング法でどんどん刺激しても卵子はなかなか育ちませんので、そこはかよちんさんの主治医の先生が言う通り、強すぎる刺激は意味がないと思います。
遅漏方針に変化を
やはり低刺激がいいのですね。でも、方法はまだいろいろありますか。
古井先生 そうですね。
一つの方法だけで治療を続けること自体が、私はよくないと思います。
最初から絶対反応しないと決めつけるのではなく、排卵誘発の方法を変えることで卵子の質がよくなる場合もありますから、他の排卵誘発法を試してみることも大切です。
また、6回の治療をどれくらいの 期間で行ったのかが不明ですが、私は1回治療したら、少なくとも次の1周期は休憩します。
そうすると1年間で最大6回ですが、実際には卵巣や子宮に負担をかけないように、年に4回くらいのペースで行うのがベストだと思っています。
私はできれば3回までの治療で妊娠に導きたいと思っています。
本来、妊娠できるはずの人が時間ばかりかかった結果、最終的に妊娠できなかったとしたら、それはあまりにも残念です。
ですから、我々医師も3回もチャンスをもらったという意識で治療に臨むべきだと思います。
※アンタゴニスト法:ショート法やロング法での点鼻薬の代わりにGnRHアンタゴニスト製剤で排卵を抑えながら卵巣を刺激するもの。この薬は黄体形成ホルモンの分泌を抑制し、採卵前に排卵してし まうことを防ぐ。