まー豚さん(24歳) Q.クラミジアからの卵管嚢腫と診断され、3年前に腹腔鏡手術で右卵管を 摘出。左卵管も状態が悪く、癒着もあると診断されています。このたび、 慢性的な痛みとたまに起こる激痛により、左の卵管も摘出予定です。担当 医師から「将来的に、妊娠は体外受精でできないことはない」と言われま した。ただし、両方の卵管がないことで通常の体外受精よりも難しいと。 将来、妊娠を望んだ時に、体外受精での妊娠の可能性はゼロなのでしょ うか? 不妊治療をするだけ無駄でしょうか? 手術で痛みがなくなるの は嬉しいですが、妊娠の可能性が今一番不安です。
卵管因子の患者さんの妊娠
今回は、絹谷産婦人科の医師で、不育症外来や漢方外来も担当されている楠田先生にお話を伺います。まずは、将来的な妊娠の可能性について教えてください。
楠田先生 左右の卵管を摘出した場合、自然妊娠は難しいですが、体外受精での妊娠は可能です。
自然妊娠は、卵巣から排卵された卵子が卵管采にキャッチされ、卵管を通って卵管内で精子と出会い、受精します。
一方、体外受精は、卵巣から直接卵子を採取し、体外で受精させて、受精卵を子宮に戻します。
ですから、体外受精では卵管がなくても妊娠できます。
胚盤胞移植などの技術の向上によって体外受精の妊娠率はどんどん上がっており、卵管に問題があって妊娠しないケースで、重要な選択肢となっています。
まー豚さんの場合、詳細なデータがないので確実なことは言えませんが、年齢的にも、ある程度卵子を採取できると予測できることから、胚盤胞移植での体外受精であれば妊娠の可能性は高いと思われます。
卵管回帰説と胚盤胞移植
普通の体外受精より難しいと言われたそうですが、なぜでしょうか?
楠田先生 まー豚さんの担当の先生のお話を直接お聞きしたわけではないので、あくまで想像のお話になりますが、体外受精で移植した分割胚は、いったん卵管に戻り、分割して胚盤胞に成長しながら、また子宮に戻ってきて着床するという、卵管回帰説という考え方があります。
これは、自然妊娠の場合は卵管で育ってから子宮にたどり着くので、体外受精の場合でも、分割胚が自然と同じあるべき場所へ戻るという考え方のようです。
つまり体外受精でも、胚移植後の卵管の役割がきちんとあるので、両方の卵管が閉塞している場合、分割胚だと妊娠しにくいのではという考えから、胚盤胞まで育てて移植をしないといけないという意味で、担当の先生が話されたのかもしれません。
卵管因子の患者さんの治療
もう片方の卵管も状態が悪い場合、先生ならどう治療されますか?
楠田先生 まずは、残っている卵管が妊娠に対して機能するかどうかを、子宮卵管造影検査などを行って、評価してもよいのではないでしょうか。
もし卵管留水腫などになっていた場合は、かえって着床の邪魔になることもあるので切除する方向でご説明します。
クラミジア感染症については、もしも早期発見できていれば、治療内容も変わっていたはずです。
なかなか症状が出づらい方もいらっしゃるので、積極的に抗体検査を受けることをおすすめします。
最後にまー豚さんにアドバイスをお願いします。
楠田先生 卵管の異常は、不妊の原因のなかで比較的多いものです。
しかし両方の卵管を切除しても、体外受精での妊娠の可能性は決して低くはないので、安心して手術に踏み切ってもらえたらと思います。
【医師監修】楠田 朋代 先生 広島大学医学部卒業。尾道総合病院産婦人科副 部長を経て、2008年より絹谷産婦人科勤務。日 本産科婦人科学会認定産婦人科専門医を取得し、 一般不妊、体外受精治療に加えて、不育症外来、 漢方外来を担当。趣味は中学生時代のクラブ活動 から続けているフルート。クラシック中心に、いろ いろな曲を演奏されるそう。