【医師監修】藤野 祐司 先生 大阪市立大学医学部卒業。米国留学、同大学医 学部婦人科学教室講師を経て、1997年にクリニ ックを開業。現在、同大学で非常勤講師も務める。 B 型・おとめ座。最近の先生のおすすめ書籍は 『不妊を語る:19人のライフストーリー』(海鳴社)。 「生殖医療を中心とした社会学に詳しい白井千晶 先生が、19人の女性のさまざまな不妊経験を克 明にレポートされていて、私も非常に参考になり ます」。
ざくろさん(30歳)Q.分割胚移植を4回行いましたが、一度も陽性反応が出ません。片側の卵管が詰 まっているので、次回は胚盤胞で移植してみたいと主治医に話しましたが、胚の 質と分割に問題があると思われるので、分割胚のままでの移植をすすめられまし た。また、卵管は関係ないとのこと。卵管閉塞の人は、胚盤胞移植のほうが着 床しやすいと聞いたのですが……。早く妊娠したいです。主治医の言う通り、分 割胚のまま移植したほうがいいのでしょうか? また着床障害の疑いはないの か、放置してある卵管水腫は問題ないのかも教えていただければ嬉しいです。
移植の歴史
まずは、分割胚移植と胚盤胞移植の違いを教えてください。
藤野先生 体外受精が臨床的に応用されたばかりの頃は、まだ培養技術が不十分だったため、2日目の分割胚の移植が一般的でした。
その後、培養液の技術が向上し、3日目の分割胚移植が主流に。
文献によると、2日目の細胞分裂は卵子の力で分割します。
ところが3日目の細胞分裂は、精子と卵子が一緒になり、赤ちゃんの遺伝子ができてはじめて、分割が進むそうです。
このような理由から、欧米を中心に3日目の分割胚移植が主流になりました。
さらに培養液の技術が進歩し、体外での長期培養が可能に。
これを応用したのが胚盤胞移植です。
移植法それぞれの特色
現在は胚盤胞が一般的ですか?
藤野先生 胚盤胞移植が脚光を浴びる理由の1つに、複数胚移植による多胎妊娠のリスクがあります。
複数の分割胚を子宮に戻すと、多胎妊娠率が高くなるとされているためです。
この多胎妊娠のリスクを軽減する方法が単胚移植(SET)です。
単胚移植をするためにも、より質のいい受精卵を選択する方法、つまり胚盤胞移植が有効とされています。
もう1つの理由は、分割胚移植による子宮外妊娠のリスク。
子宮に分割胚を戻しても、卵管にまで移動して着床する可能性があるといわれているからです。
胚盤胞移植なら、このリスクも軽減されるのではないかと考えられています。
ただし、胚盤胞移植にもデメリットはあります。
まず、卵子が体外での長期培養に耐えられるかどうかの懸念。
さらに、胚盤胞になる日数を正確に予測できないこと。
そのため、移植日をあらかじめ決めることができません。
このように、分割胚移植と胚盤胞移植は、それぞれに特徴があるので、どちらを選択するかは、医師の考え方によって異なると思います。
それと、卵管水腫があると、卵管内に溜まった分泌液が移植の時に子宮に逆流し、戻した胚をだめにしてしまう場合があるので、移植の前に卵管水腫の処置をしておいたほうがいいですね。
手術で卵管を切除したり、移植の当日に卵管水腫の分泌液を抜くという方法があります。
卵管と子宮の通過性に問題がなければ、受精卵の質を確認するためにも、胚盤胞移植でのチャレンジをおすすめします。
胚盤胞移植と一卵性双生児
医師に相談したものの、分割胚移植をすすめられたそうですが。
藤野先生 実は、研究につれ、最近、一卵性双生児が増えているのは、胚盤胞移植の影響ではないかと考える先生もいらっしゃいます。
もちろん胚盤胞移植は、卵管閉塞などでなかなか結果が出ない方には有効な方法だと思いますが、一方で、胚盤胞を1個しか戻していなくても、一卵性双多胎になってしまう可能性を懸念する声があるのも事実です。
ですからもう一度、担当の先生とよく相談してみてはいかがでしょうか。