【医師監修】徳岡 晋 先生 防衛医科大学校卒業。同校産婦人科学講座入局。 自衛隊中央病院産婦人科勤務後、防衛医科大学校 医学研究科に入学し、学位(医学博士)取得。 2000年より木場公園クリニックに勤務。5年間の 勤務を経て2005年に独立し、とくおかレディースク リニックを開設。A型・みずがめ座。暖かくなったら、 しばらくお休みしていた趣味のガーデニングを再開す る予定だそう「。植物は手をかけると必ず育ってくれる。 治療も同じように新芽が出てくると信じて私たちも取 り組むし、患者さんにも頑張ってほしいと思います」。
金魚さん(42歳)Q.タイミング療法、人工授精 3 回の後、顕微授精をしています。5 個採卵し5 個 受精、4日目に2 個戻し、5日後に卵巣過剰刺激症候群(OHSS)で5日間 入院し、陰性でした。採卵後、抗生物質などの投与はなく、帰宅後、下腹部に 生理痛のような痛みがあり、病院に電話したところ「鎮痛剤を服用してもいいが、 あまりひどいようなら入院の準備をしてきてください」と言われ、鎮痛剤を服用。 しばらく眠り、夜嘔吐しましたが、病院から採卵の際「麻酔の副作用で嘔吐す る場合がある」と聞いていたので、様子をみました。 移植前も下腹が少し痛かったのですが、伝えていれば移植せずOHSSにならず に済んだのでしょうか? 凍結胚移植をしていたらもっと確率が上がっていた?
麻酔による副作用
採卵後の痛みや嘔吐は、何が原因で起こるのですか?
徳岡先生 金魚さんが使われた麻酔は「副作用で嘔吐する場合があると言われた」とのことなので、日本で最も多く使われる静脈系の全身麻酔だと思います。
強い麻酔ではありませんが、当院でも5%くらいの方に気持ち悪くなる症状が見られます。
そのような副作用ではなく、採卵によってお腹の中で出血が起こり血液がどんどん溜まって痛くなったり気持ち悪くなるという可能性もあります。
確率的には1000〜1200件に1件くらいの割合といわれています。
このどちらからくる痛みかを判断するのは非常に難しいです。
超音波で事前確認
どの段階でドクターに申告すればいいのでしょうか?
徳岡先生 痛みの感じ方は個人差が大きいですし、痛みに強い方もいるので、私たち医師はどんな場合も「大丈夫です」とは言い切れません。
心配があれば診察で超音波やお腹のかたさを見てもらったほうがいいと思います。
ただ、重篤な場合は痛みが強くなっていくはずなので、様子をみてよくなるようなら、まず大丈夫でしょう。
金魚さんの場合は副作用だったと考えていいと思います。
OHSSの場合の注意点
移植をしなかったらOHSSにならなかったのではと考えていらっしゃるようです。
徳岡先生 OHSSは年齢の若い方、多嚢胞性卵巣症候群の方、 35 歳以上でも卵子が多くできる方がなるので、 42 歳の金魚さんがなったというのは不思議な気がします。
ただ排卵誘発の仕方にもよるのですが、採卵した周期に戻すとOHSSになる可能性はあります。
そういうこともあり、今は凍結胚移植を選ぶケースが増えていますね。
また、採卵した周期は内膜が厚くなっているといわれますが、ホルモンの作用で逆に着床しにくくなっています。
卵子と内膜の同期性がずれるという言い方をするのですが、年齢の高い方のほうがその可能性がより高くなります。
40 歳以上の方ですと採れる卵子の数が減っているので、卵子と内膜の同期性がずれている時に戻すよりは、卵子と内膜が合ったホルモン補充周期で戻すケースが増えています。
子宮内膜と卵子の同期
金魚さんは、今後どのような治療がいいでしょうか?
徳岡先生 凍結してある3個をホルモン補充周期で融解胚移植し、しっかり内膜と卵子を同期してあげるのがいいでしょう。
担当の先生はおそらく着床率を上げる方法を考えてくださっていると思いますので、よく話をお聞きして信頼関係を築き、頑張っていってほしいと思います。
※卵巣過剰刺激症候群(OHSS):排卵誘発法により多数の卵胞が発育・排卵することで、卵巣が腫れる、腹水や胸水がたまる、血液の電解質バランス異常、血液の濃縮などの症状をみせるもの。
※ホルモン補充周期(胚 移植法):ホルモン製剤を投与して自然排卵を抑え、子宮内膜を受精卵の着床に適した状態に調整して、胚移植をすること。通常、GnRHアナログ製剤と、飲み薬や貼り薬(パッチ剤)、軟膏、腟座薬などでエストロゲン を補充し、子宮内膜が10㎜以上になったところでプロゲステロンを投与する。妊娠した場合、プロゲステロンを一定期間(6~8週)投与する。自然周期胚移植法と比べ、移植日を特定しやすく、妊娠率も高いという