【医師監修】蔵本 武志 先生 久留米大学医学部卒業、山口大学大学院修了。山口県立中 央病院産婦人科副部長、済生会下関総合病院産婦人科部 長を経て、1990年オーストラリア・PIVETメディカルセンター へ留学。帰国後、1995 年蔵本ウイメンズクリニック開院。 O 型・おうし座。今年7月には、スウェーデンで開催された ヨーロッパ生殖医学会にも参加された蔵本先生。世界各国 の生殖医療の関係者による多数のセッションが展開され、 さまざまな最新情報が得られたそうです。
匿名さん(42歳)からの投稿 Q.体外受精から治療スタートして5 年目になります。現在は顕微授精(アンタゴニス ト法で排卵誘発)にチャレンジ中。毎回、採卵数は3個以下で、最近の採卵では 2 個が確認され、1個を回収して良好分配胚 G3、8 分割を移植。判定日の β-hcgは44で、再判定日にリセットという結果でした。着床していたかどうかは、 どちらとも言えないそうです。最近「もしかしたら自分が太りすぎているから妊娠し ないのでは?」と考えるようになりました。身長154cm、体重58.5kg、BMIは 25です。少し痩せるべき? また、肥満はなぜ不妊の原因になるのですか?
肥満が生み出す不妊要因
不妊治療5年目の匿名さんは、太っていることが不妊の原因ではとも思われているようですが。
蔵本先生 肥満度を表すBMIという数値は、体重(㎏)÷身長(m)÷身長(m)という計算で出すことができます。
この方式で普通体重とされている値は、BMI 18 ・5以上25 未満なので、匿名さんは数値から判断すると、BMI 25 以上 30 未満の肥満度1(軽度肥満)と判断することができます。
一般的に肥満は、体に過剰な脂肪が蓄積した状態をいうのですが、肥満の程度が大きくなるにつれ、糖尿病のほか、多くの生活習慣病の危険因子を持つことになります。
さらに肥満の程度が強くなると、ホルモンの異常が起こりやすくなり、月経不順や排卵障害を起こす頻度も高くな
ります。
ります。
実際に、BMIが上昇すると排卵障害の症例が増加するという報告も出ているんですよ。
また、卵巣に卵胞はたくさんできるものの、排卵がうまくいかない多嚢胞性卵巣症候群の方は、肥満になりやすく糖代謝異常が見られることがあります。
糖代謝に異常をきたすと、血糖値を下げるインスリンが十分に働かず、男性ホルモンの上昇やホルモンの分泌異常を促し、排卵障害を引き起こすこともあります。
さらに、肥満度が増すと、排卵誘発剤に対する卵巣の反応が低下するため、採卵数が減少し、結果として妊娠率が低下する場合もあります。
こうしたことを踏まえると、肥満が少なからず不妊の原因になり得る、ということがご理解いただけると思います。
匿名さんは、数値から見るかぎり、特別な肥満というわけではありませんが、少しでも不安要素を減らすためには規則正しい食生活や軽度の運動を心がけて、BMI22 〜 24 程度、体重を 52 〜 56 ㎏くらいに調整してもいいかもしれません。
年齢・移植方法・子宮環境
そのほかに気になる点はありますか?
蔵本先生 やはりご年齢でしょうか。
ただし、まだ良好分割胚ができているようですので、一旦胚を凍結し、子宮内膜の環境がいい別の周期に凍結融解胚移植をするなどの工夫をされてみてはいかがでしょうか。
心配はないと思いますが、一度子宮ファイバースコープ検査などで、子宮内の状態を診てもらってもいいかもしれません。
一般的に、 40 歳を過ぎると妊娠率は低下するといわれていますが、当院では 44 歳で妊娠・出産されている方もいらっしゃいます。
諦めずにできることをしていってください。