女性にとってはなじみが薄い男性不妊の検査内容。 宮崎レディースクリニックの宮崎先生に 受けておきたい男性不妊の検査についてお聞きしました。
【医師監修】宮崎 和典 先生 大阪医科大学医学部卒業。学生時代の新生児医療への興味が きっかけとなり、体外受精や不妊治療の世界を志す。同大学産 科婦人科講師を経て、1992年に不妊症、不育症治療専門クリ ニック、宮崎レディースクリニック開業。開業当初より泌尿器科 の専門医による男性不妊外来を開設する。A型・しし座。普段 から「不妊治療には癒しが必要」とおっしゃる先生。クリニック では、痛くない治療、不安を取り除くケアを大切にしている。「診 察に来るのが楽しみだなんて言われると、嬉しいよね」
目次
ドクターアドバイス
精液検査は男性にとって基礎的な検査。 体外受精の前に、ぜひ受けていただきたいですね
ももさん(主婦•年齢秘密)からの投稿 Q.通院中のクリニックでは、男性不妊は検査までとし、 結果を見るだけで何の説明もないし、投薬などもありません。 今、体外受精をしていて、その結果で精子の検査データを見ました。 「液量 0.3mL、精子数 30×10の6 乗/mL、運動率 67%」と 書いてありました。体外受精にステップアップをすすめられた周期の 人工授精の場合、精子数は300万個 mLとかですすめられた気がします。 精液の量を増やす手術などあるのでしょうか?
精液検査の結果
体外受精時のご主人の精液検査の結果について、ももさんは医師からもっと詳しい説明が欲しかったと感じていらっしゃいます。先生はどのようにご覧になりますか?
宮崎先生 精液検査の結果を見て最も気になるのは、ももさんがおっしゃるように、やはり、精液量が少ない点ですね。
精子数については、3000万個/ mL あれば、一応、基準値には達しているけれど少なめとなります。
しかし、運動率はいいので、ご主人の精子の状態は、それほど悪い値ではありません。
3000万個/ mL は軽度の★乏精子症、300万個/ mL はやや重度の乏精子症という診断になるでしょう。
人工授精や体外受精を行うにはそう問題のない数値です。
現在の医療では、精液を増やしたり、精子そのものを改善する手術や特効薬はありませんので、担当の先生の反応も仕方がないのかなと思います。
そもそも精液検査は、検査するタイミングによって結果に結構ばらつきがあるのです。
その時の体調や生活習慣なども大きく影響しますから、1回の結果がよくなくても気にしすぎないほうがよいでしょう。
精液所見悪化の原因
どのようなことが精子の状態に最も影響を与えますか?
宮崎先生 まず、喫煙はよくないですね。
当院でも禁煙は必ずおすすめしています。「先生からやめるように言ってください」と奥さんに頼まれることもしばしばですね。
あとはメタボリックシンドローム。
高脂血症や糖尿病は大きく影響しますので、食生活の改善は不可欠です。
精液検査は1回でも結果がよければ、それで問題なしと判断してよいでしょう。
あまりよくない結果が出た場合は、2回、3回の再検査をおすすめします。
無精子症でも妊娠できる
先生は 92 年の開業と同時に、泌尿器科の専門医による男性不妊外来を設けておられます。やはり、当時から男性の治療の必要性を強く感じていたのですか?
宮崎先生 そうですね。
不妊症のカップルの半数近くは、男性側にも不妊原因がありますので。
ただ、 10年ほど前は、不妊治療といえば女性側からのアプローチがほとんどでした。
しかし、今は医療技術の飛躍的な進歩にともない、たとえ無精子症で精液中に精子がまったく見つからないご夫婦でも、★TESEやMD ― TESEによって子どもを授かれるようになりました。
近年は乏精子症の治療においても、あまり効果が確実でない投薬に頼るよりも、さらに妊娠への可能性が期待できる人工授精、体外受精、顕微授精へと早めにステップアップしていく傾向にあります。
ももさんのご主人の場合も、検査結果を見て医師がそう判断されたのでしょう。
より詳細な検査
精液検査のほかに、精子の状態をさらに詳しく調べる検査はありますか?
宮崎先生 体外受精でなかなか妊娠できない人には、顕微授精が必要かどうかを調べるためにも、血液中のホルモンや染色体について詳しく解析する検査を行うことがあります。
ただ、その検査では、どこがどのくらい悪いのかというところまで、ハッキリとわかるわけではありません。
経験的にいうと、あまり検査にこだわりすぎるのはどうかという思いがありますね。
まして、母体の胎内の環境と、人工的な体外の環境は大きく異なりますから、血液検査をして受精しにくい要因があるからといって、それがすなわち受精能力がないという判定にはなりません。
それよりも、実際に受精できるかということは、やはり体外受精を行ってみると一番よくわかると思います。
それに、体外受精は女性の排卵誘発や採卵に沿って、治療のスケジュールが決まっていきます。
ただ、人間の体ですので、すべてがこちらの思い通りにはならない。
そんな時に初めて男性側に何か異常が発覚すると、慌ててミスが起きないとも限りません。
治療にはゆとりが大切です。
そのためにも、精液検査はぜひ最初に受けておいてほしいと思います。
男性も生殖機能が低下する
精液検査は男性にとってそれほど基礎的な検査ということですね?
宮崎先生 精液検査は、女性にとっての子宮卵管造影検査と同じくらい、男性にとって基礎的な検査といえるでしょう。
検査は、プライバシーが守られた院内の採取室で精液を採取していただきます。
自宅で採取して持参してもらうことも可能ですが、精子の運動率が下がってしまうことがありますので、できれば真夏や真冬などは避けたいですね。
原則として、院内での採取が望ましいでしょう。
そこで異常が見つかった場合のみ、陰嚢部の触診、超音波検査、ホルモン検査などの精密検査を行います。
ですから、まずは気楽に考えて検査を受けに来てほしいです。
また、もしも以前に検査を受けたことがあっても、体外受精の前には再度受けることが望ましいです。
なぜなら、男性も女性と同様に、 35 歳を過ぎると急に生殖器の機能が低下する方が多いからです。
たとえすでに第一子がいらっしゃるような場合などでも、受けておいていただくと安心です。
おしえて!
★乏精子症って?
精液中の精子の濃度が低い状態のこと。WHOの基準値によると、精液1 mL中に精子数が2000万個未満の状態をいう。
精子濃度が100万個/ mL以下の重症度の乏精子症では、自然妊娠の可能性が極端に低い。
軽度の場合は人工授精が有効だが、それでも妊娠が困難な場合には体外受精や顕微授精が必要になる。
そのほか、精子運動率が 50 %未満の精子無力症、 精液中に精子がまったく見つからない無精子症などが、男性不妊の要因となる。
★TESEって?
精巣内から組織を採取し、精子を採取する方法。
精巣内精子回収術ともいう。
精液中に精子が確認できない非閉塞性無精子症の場合でも、TESEによって得られた精子を使って顕微授精をすることができる。
最近では、顕微鏡下で精巣組織を観察し、より良好な状態の組織を選別して採取するMD ―TESE(顕微鏡下精巣内精子採取術)が主流となりつつある。
手術は麻酔下で精巣を切開し、組織を採取する方法で行われる。